昨今「パワハラ」という言葉をよく耳にします。一般的に立場のあるものが下の人間に対し、その力関係を利用し理不尽な言動や圧力をかけることを「パワハラ(パワー・ハラスメント)」と呼ぶようです。
パワハラは決して許される行為ではありません。しかし、昨今は上司や同僚からの指導や、能力不足の指摘などについても「パワハラ」とされることがあり、その「境界線」が曖昧になっているように思えます。
パワハラと指導の違いはどこにあるのか。星野・長塚・木川法律事務所の木川雅博弁護士に解説していただきました。
■パワハラと指導の違いは?
「管理職・マネージャになると、つい出来の悪い(と感じられる)部下には指導したくなりますが、このご時世、行き過ぎた指導は“パワハラ”と言われてしまいがちです。
暴力、度重なる暴言、不必要な叱責の繰り返しがパワハラに当たることは疑いないとしても、ではどこまでいったらパワハラなのかという明確な判断は難しいでしょう。
そこで、今回は、どこまでが指導の範囲でどこからがパワハラになるのかについて解説したいと思います」(木川弁護士)
■パワハラの定義と種類
「実は統一的なパワハラの定義はないのですが、パワハラとは、職場における力関係において優位にある上位者が、下位者に対し、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与えること等をいいます。
後でも述べますが結局は様々な要素を考慮してパワハラ行為に当たるか、すなわち法的に違法行為と評価されるか否か判断されることになります。
厚生労働省は、パワハラと判断された裁判例等を分析し、以下の6類型をパワハラの典型行為としています。
(1)身体的な攻撃(暴力)
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
(5)過小な要求(合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり仕事を与えなかったりすること)
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」(木川弁護士)
■パワハラの具体例
明らかなパワハラではなく指導を越えたパワハラに当たるとされたものというべきものとしては、他の従業員の前で繰り返し「ばかやろう」と罵ったり、「三浪して○○大にはいったにもかかわらず、そんなことしかできないのか。」と罵倒したりした事案があります。
暴力を伴わない行為の場合は、
(1)精神的に苦痛を与えるものか
(2)人格否定を伴うものか
(3)業務改善指導としての言動と評価できるか(ミス発覚直後か否か、日時を変えて繰り返し行われているか否か)
(4)パワハラをしたとされる者とされた者の人的関係
の(1)~(4)を基礎づける具体的な事実関係をみて、業務上の適正な範囲を超えた違法なパワハラ行為に当たるかどうかが判断されます。
このように、パワハラかどうかは多分に評価によって決まるものであり、「これをやったら一発アウト」と誰もが思えることは判断基準となり得ません。
そのため、職場の力関係で優位にある者(部下をもつ上司に限られない)は、他人に指導するとき、
・今この場で怒るべきか
・不必要な人格否定・悪口になっていないかどうか
・相手に向かって乱暴な言動をとっていないか
・その指導の仕方(怒り方)をして相手が態度を改めたり業務改善できたりする効果があるといえるか
の4点を自らに問いかけてから指導をしたり軽口を言ったりしたほうが無難です。
頭ごなしに叱責したところで、それが当人の能力向上につながることは少ないといえます。
きちんと時代の変化に対応してパワハラを行わないほうが会社の利益となり、そして自分の評価にも跳ね返るといえますので、管理職にある方、これから部下を持つ方は気をつけたいところですね」(木川弁護士)
部下を持つ立場の人間は、「パワハラ」といわれないような指導が求められているようですね。これもご時世ということでしょうか。
*取材協力弁護士:木川雅博 (星野・長塚・木川法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野・長塚・木川法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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