犯罪を重ねる親の介護を拒否したい! 子は親を「介護しなければ」いけない?

介護は子が親にする最後の恩返しといわれますが、実情は甘いものではありません。認知症ともなれば、「手に負えない」ことが多く、困り果ててしまいます。

高齢化が進むなかで、介護の必要性は高まっていますが、受け入れる側の体制は整っていないようです。

 

親の介護を拒否したいHさん

介護について悩んでいるのが、50代男性のHさんです。彼の父親は窃盗などで犯罪を重ねており、つねに頭を悩ませられてきた存在。疎遠になりほとんど連絡もとっていませんが、最近病魔に倒れ、親戚から「息子に介護を頼みたい」と話していると伝えられました。

様々な場面で「ネック」となってきた父親の介護をすることについて、Hさんは強い抵抗感を持っており、関わりを持ちたくないと考えているそう。しかし周囲には「お前が面倒を見るべきだ」「子供としての義務を果たすべきだ」という声もあり、思い悩んでいます。

Hさんは介護しなければならないのでしょうか? あすみ法律事務所の高野倉勇樹弁護士にお聞きしました。

 

介護しなければいけないのか?

高野倉弁護士:「自分で介護する必要はありませんが、経済的援助(扶養)をする必要はあります。まず、子ども自らが父親を介護する必要はありません。
これは、父親が犯罪を重ねていてもいなくても同じです。大人になった子どもには親を扶養する義務があります(民法877条1項)。

扶養の方法は、金銭的な援助が原則です。同居するなどして子ども自身が世話をする必要まではありません。介護保険を利用して介護サービスを入れる、施設に入所してもらい施設費を援助するといった方法が考えられます」

 

保護責任者遺棄になる場合も

高野倉弁護士:「ただし、既に介護していた父親を何の手当もなく急に放置した場合には、保護責任者遺棄罪(刑法218条)に問われる可能性があります。扶養義務自体はなくならないとしても、親の不行状は扶養の内容に影響する可能性はあります。

親子間に「容易に融和できない対立」があり、その原因が親の「やや異常と思える程のかたくなな性格」にあるとしても、扶養義務自体は認められるとした裁判例があります(大阪高等裁判所昭和45年11月26日決定)。このような事情は、扶養として支払う金額を少なく定めるという方向に働きます。

なお、介護を受けるような状態にある人が犯罪を重ねるケースの場合、認知症を含む精神障害がないか、その影響で犯罪に及んでいるのではないかと考えてみることが必要です。精神障害が原因であれば、精神科病院や精神保健福祉センターなどでの治療によって状況が改善する場合があります」

 

遺産相続はどうなる?

仮に介護を拒否した場合、遺産相続はどうなるのでしょうか?

高野倉弁護士:「親(被相続人)の不行状は、相続に特別の影響はありません。子ども(相続人)は、相続したくなければ「相続放棄」の手続をすればよいということになります。
相続放棄は、親(被相続人)の存命中はできません。親(被相続人)が死亡し、相続が開始した後に初めて、家庭裁判所に申立てをすることで相続放棄をすることができます」

 

子が親を介護は義務?

介護は由々しき問題です。Hさん以外にも、放棄したいと考えている人はいることでしょう。子は親を介護しなければいけないものなのでしょうか?

高野倉弁護士:「先ほど述べたとおり、子どもが『自ら介護をする義務』はありません。ただし、扶養義務として、経済的な援助をする義務はあります。
法的に『親子の縁を切る』ということはできないので、扶養義務はどうしても残ります。介護するかしないかの選択権はありますが、扶養するかしないかの選択権はないといえます」

 

しっかりと覚えておこう

子が親を介護するのは一般的なケースですが、「しなければいけない」という義務はありません。誤った認識を持っている人も多いと聞きますので、しっかりと覚えておきましょう。

 

*取材協力弁護士:高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

高野倉 勇樹 たかのくらゆうき

あすみ法律事務所

東京都港区西新橋1-18-6 クロスオフィス内幸町901

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