2020年の東京オリンピックに向けたインバウンドマーケティングが注目される中で、外国から訪れる観光客を、いかに「おもてなし」するのかというトピックが、メディアでも数多く取り上げられています。
そのような流れの中で、特に注目されている日本の観光資源は温泉などの温浴施設です。
先日、経済産業省が、外国人にわかりやすくするために温泉マークのデザイン変更を検討が伝えられたところ、多くの反対意見が寄せられたため、現在のデザインで継続となったという報道がありましたが、同じように、外国人に温浴施設を利用してもらう上で、議題に上がっているのが「タトゥー入浴お断り」の温泉についてです。
そこで、以下のような質問に関して、法的にどのような解釈ができるのでしょうか? 和田金法律事務所の渡邊寛弁護士に見解を伺いました。
*取材協力弁護士:渡邊寛(和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。個人事案は子どもいじめ事件から相続争いまで、企業事案は少額の債権回収から渉外買収案件まで、あらゆる案件に携わる。)
Q.オシャレ目的でタトゥーをしている人が「タトゥー入浴お断り」の温泉に入浴することは、法的にNGなのでしょうか?
A.NO!法令上、タトゥーに関する入浴制限はない。
「法令上の入浴制限はありません。公衆浴場法やこれに基づく各都道府県の条例は、伝染病患者の入浴の拒否など衛生・風紀の維持を義務付けていますが、タトゥーに関する規制はないのです。
タトゥーのある方の入浴制限は、温泉施設運営者が自主的に利用を断っている状態です。警察や自治体が入浴制限を要請することもあるようですが、施設運営者に対する任意のお願いベースのルールであると捉えて問題ありません。
逆に、温泉施設がタトゥーをお断りすることが法的に許されるかを考えてみたいと思います。温泉施設に限らず、営業の自由がありますので、レストランがドレスコードを設定したりするように、誰を顧客とするのかは基本的にお店の自由です。
ただし、顧客の選別が不合理な差別になると不法行為となり損害賠償責任を負うことになります。不法行為になるかどうかは、社会的に許容しうる限度を超えるかないし公序良俗に反するかが個別具体的に判断されます。
裁判で店舗側の損害賠償責任が認められた事例として、公衆浴場の外国人入浴拒否、インターネットカフェの障害者入店拒否、賃貸マンションの外国人入居拒否などがあります。
タトゥーの入浴制限に関する裁判例はまだないようですが、温泉施設は日常生活において必要性の高い銭湯とは性格が異なることや、オシャレ目的かどうか(威圧的か否か)は線引きが困難なことなどから考えると、今のところは、温泉施設が一律にタトゥーのある方の入浴を拒否することが裁判において“公序良俗に反する”と判断される可能性は低い(したがって、温泉施設はオシャレ目的のタトゥーでも入浴をお断りすることができる)ように思います。」(渡邊弁護士)
*取材協力弁護士: 渡邊 寛 (和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)
*取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)
【画像】
*IYO / PIXTA(ピクスタ)
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