厚生労働省は12月13日の労働政策審議会にて、実際とは異なる条件を示して求人をした企業に対する罰則を強化するという方針が了承され、職業安定法の改正案を来年の通常国会にて提出する方針であるとのことです。
過労自殺や、パワハラ・セクハラといった労働トラブルが叫ばれる昨今ですが、この改正案に実際に効果があるのかどうか、考えてみたいと思います。
■虚偽の求人をした企業の処罰範囲の拡大について
法律の不備を埋めるものであり、ブラック求人を撲滅するために必要な改正です。
しかし、求職者の立場からすると、処罰範囲を拡大してもらっただけで解決するわけではないような気がします。
求職者の立場からすれば、虚偽の求人をした企業が処罰されるのはわかった、それで虚偽の求人であることがわかった場合どうすれば自分や他の求職者は救われるのかということです。
労働に関するトラブルで労働者は、労働基準監督署に行っても警察署に行っても話を聞いてもらえたが解決にならなかった、そこで弁護士に相談したら「裁判しましょう」と言われたが「お金・労力・時間がかかりそれでもいいですか」とも言われ、悩んでいるということもあるかと思います。
また、処罰範囲を拡大しても、実際に監督官庁の方で摘発しなければ処罰されることはないわけですから、その場合虚偽の求人をした企業をのさばらせることになります。
したがって、処罰範囲を拡大するだけでなく、求職者が虚偽の求人にひっかかった場合の求職者の相談を受理する体制や虚偽の求人を出した企業に対して監督官庁が是正を求める手段も整備しないと十分でない気がするわけです。
■労働条件等の明示について
この点もブラック求人撲滅のために必要な改正です。
しかし、求人の内容を信じて面接に行った、面接の結果求人の内容では採用できないと言われ求人の内容より悪い労働条件(“契約社員なら”等)を別に提示され採用担当者に丸め込まれ冷静な判断ができず契約書にサインしてしまった、後日やはり納得行かないので辞めたいと言ったら損害賠償請求するといわれたといった例もあるようです。
この場合、求人で労働条件等が明示されていても、その後の合意によって修正された労働条件等で労働契約が成立したとして扱われかねません。
したがって、求人で労働条件等を明示させることはもちろんですが、求人で明示された労働条件等を求職者に不利に変更して再提示することを認めないようにすることや求人の労働条件等と異なる労働条件等を提示されて契約してしまった者を契約による拘束から救う手段(クーリングオフ等)も必要ではと思うわけです。
■ハローワーク等が企業の求人申込の受理を拒否できることについて
一般の求職者はハローワーク等に対して信頼を寄せて求人を見るわけですから、この点もブラック求人撲滅のために必要な改正です。
しかし、求人申込の受理を拒否できるだけではやはり不十分と思います。民間の職業紹介会社であれば、企業からお金をもらって求人申込を受理するわけですから、拒否するとは限らないのではと思うわけです。
また、求人申込の受理の拒否を適切に行えるようにするためにはブラック企業であるかどうかを職業紹介会社の方で把握できる仕組みも必要ではと思います。
以上、思いつくままに書きたい放題いたしましたが、実際に機能する改正に期待したい今日この頃です。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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