女性教諭が結婚後の旧姓使用を認められず…弁護士はこの問題をどう読み解くか

*画像はイメージです:https://pixta.jp/

先日、結婚後に職場で旧姓の通称使用を認めないのは人格権の侵害だとして、日本大学第三中学校・高等学校に勤務する30代の女性教諭が「日大第三学園」を運営する学校法人に対して、旧姓の使用と約120万円の損害賠償を求めた訴訟が報道されました。この裁判で、東京地裁は旧姓の使用を認めず、女性教諭の訴えを棄却するといった判決を10月11日に下しました。

このニュースに対しては、女性だけでなく男性からも、時代遅れの判決であるという批判が多いように感じます。

そこで旧姓の通称利用について、企業法務に詳しい三宅坂総合法律事務所の伊東亜矢子弁護士にお話を伺ってみました。

*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)

 

■一般的には旧姓の通称利用は認められる方向に

働く女性にとって、この訴訟の判決は、とても関心の高いニュースだと思います。また、教職員が公人かどうかということも、裁判のキーポイントでした。法律の専門家は、このニュースをどう捉えたのでしょうか。

「上記訴訟において、学校側は『教職員は公人だ』という主張をしていたようでした。この点について東京地裁がどのように判断したのかは報道から明らかではありません。

しかし、結論としては、『旧姓を通称として使う利益は法律上保護される』とはしながらも、教諭側の訴えを認めませんでした。

この結論は、夫婦同姓規定を合憲とした昨年12月の最高裁判決が、改姓の不利益は旧姓の通称利用が広まることで一定程度緩和されると指摘したこととも逆行するもので、現代社会において受け入れにくいものと考えます。

なお、東京地裁は『医師など旧姓が認められない国家資格も多数ある』と指摘したとのことですが、弁護士は旧姓使用が認められており、私自身、旧姓で職務を行っております。また、公務員の場合、旧姓使用を認めるケースも多いようです(例えば、インターネットで公開されている人事院の国家公務員試験採用情報NAVIや、東京都職員服務規程などを見ましても旧姓使用は認められています)。

教諭側は控訴する方針とのことですので、引き続き注視したいところです。」(伊東弁護士)

この問題は、選択的夫婦別姓は違憲であると国を訴えた裁判とは異なり、旧姓の通称使用を認めない学校法人を訴えた民事裁判です。今回のケースでは通称使用を認めない学校法人側の考えを認めたことになりましたが、学校法人を企業と捉えた時、こうした社内規定に従うことは仕方のないことなのかもしれません。

しかし、こうした学園の考えが世間一般に支持されないということになれば、女子生徒の志願者が減ったり、女性の教職員が求人に応募しなくなったりといったことも、今後十分に考えられます。

また、夫婦別姓に関する問題に対して「家族のあり方が損なわれる」という慎重論もありますが、現実的な問題として、共働きの家庭の増加、離婚率の上昇、再婚によるステップ・ファミリーの増加などからもわかるように、日本における『家族のあり方』も、以前とは大きく変わっています。

こうした現状に法律が追いついていない側面があることも事実ですので、女性・男性を問わず、すべての国民の関心事としてこの問題を捉えていくことが非常に大切なのではないでしょうか。

 

*取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)

【画像】イメージです

*マハロ / PIXTA(ピクスタ)

【関連記事】

職場で増加するSNSが原因の「不倫冤罪」…誤解されないための法的知識とは

離婚したのに別れた夫の苗字を名乗ってもOK?必要な手続きとは

不倫がバレた妻に対して、夫がDV&慰謝料を請求…妻はどんな対策をすべき?

5歳の子供を連れて別居検討中の妻が、夫とスムーズに離婚するための2つのポイント

夫がダブル不倫の末に相手を妊娠、あげく家を飛び出し離婚を迫ってきた…妻が取るべき行動とは?

コメント

コメント