関西電力が、2年間で約17億円に及ぶ賃金の未払いがあったと発表しました。
労働基準監督署からの是正勧告を受け全従業員の勤務状況を調査した結果、1万2千人の従業員に未払いだった2年分の割増賃金を一括で支払うとのことです。
大変な額ですが、ちゃんと支払われることになったのは従業員にとっては何よりです。会社が倒産などして賃金をもらえなかったというケースも往々にしてあると聞きます。
このような未払いの賃金について、法律事務所あすかの冨本和男弁護士にお伺いしました。
■給与にも時効がある!
給料の未払いは労働基準法に違反する行為ですが、経営状態などによって未払いが発生することもあるでしょう。これは会社との話し合いや労働基準監督署の勧告、調停などで請求し、支払いを得ることができます。
しかし、もし会社が賃金の未払いを残したまま倒産したら? そしてそれから10年ほど経過していたとしたら? 経営者が「後で必ず払う!」と言ってくれはしましたがそのまま経過してしまった、そんな場合はどうでしょう?
「支払い義務のある会社が破産して消滅してしまったのであれば、会社から回収することはできません。また、社長が払うと約束してくれたとしても、給与の請求権は2年で時効ですので、時効を援用される可能性があります」(冨本弁護士)
あまり知られていないかもしれませんが、賃金の支払いにも時効があるのです。「払ってくれると言ったから」と安心して放置しておくと時効が来てしまいます。せっかく働いたのに賃金がもらえなくなっては水の泡です。
「しかし、もし、倒産後にも社長に請求し『払う』との回答を得ているのであれば、社長の支払い義務と時効の中断を主張して請求できます。
ただし、社長が『払うなどと言ったことはない』ととぼけて、支払い義務や時効の中断を争ってくる可能性もあります。払ってもらうためには、社長に現在の日付の入った書面で支払い義務を認めさせ支払いを承諾させ時効の援用を封じる必要があります」(冨本弁護士)
■絶対に放置せず、支払いの約束は書面に
未払いがあった場合、会社を辞めた時点であらかじめしておくべき手続きなどがあれば教えてください。
「未払いがあったのであれば、後日争われないようにするため、書面にしておいた方がいいと考えます。また、時効期間が2年間ですので放置しないようにする必要があります」(冨本弁護士)
経営者が払うと言っていたとしても、口約束だけでは踏み倒される可能性があります。必ず書面の形で証拠を残しておくことが必要です。
ただし、経営者がいくら払うと言っても、無い袖は振れないものです。国には「未払賃金立替払制度」といって、倒産により賃金が支払われなかった労働者に対し、未払賃金の一部を立替えて払ってくれる制度があります。
立替額は未払額の8割で年齢に応じた上限もあるので満額を得ることはできませんが、1円ももらえないよりはマシと考えこの制度を利用するのもひとつの手かもしれません。
いずれにせよ、雇用者には労働に対する対価を得る権利があります。それをむざむざと失うことがないよう気をつけたいものです。
*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。
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*freeangle / PIXTA(ピクスタ)
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