昨今、セクハラやパワハラのトラブルが相次いでいます。立場を利用し、弱いものに対して言うことを聞かせる行為は、好ましいものではないことは明白です。
このような行為が常態化している場合、経営者としては解雇を考えざるを得ません。しかし、役員レベルになると、辞めさせることができるのか否か、悩んでしまうところ。
また、一般人とは違う手続きなどが必要になるのではないかと不安になってしまいます。一体どのようにすれば良いのか。法律事務所あすかの冨本和男弁護士にお伺いしました。
■役員をセクハラやパワハラを根拠に退職させることはできる?
「役員(兼社員)が会社が注意していたにもかかわらずパワハラ・セクハラを繰り返していた場合、あるいはパワハラ・セクハラの内容があまりにも悪質で即解雇もやむを得ない場合、懲戒処分としての解雇が有効となる場合もあると考えます。
まず、パワハラ・セクハラを理由に懲戒解雇するためには、パワハラ・セクハラが当てはまる懲戒事由(例えば「職場規律違反」)と懲戒処分としての「懲戒解雇」を就業規則で定めている必要があります。
就業規則において、懲戒事由として「職場規律違反」等を定めていない場合や、懲戒処分として「懲戒解雇」を定めていなければ、根拠規定を欠くことになりますから、パワハラ・セクハラを理由に懲戒解雇することはできないということになります。
懲戒事由として「職場規律違反」等、懲戒処分としての「懲戒解雇」が就業規則で定められている場合、パワハラ・セクハラを理由に懲戒解雇する余地があります。
しかし、懲戒処分も、懲戒にかかる労働者の行為の性質・態様・その他の事情に照らし、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、懲戒権の濫用として無効になってしまいます(労働契約法15条)。
したがって、パワハラやセクハラの内容・被害を受けた従業員の状況・パワハラやセクハラを行った役員の対応・会社の対応等によって、懲戒解雇が有効となる場合もあれば無効となる場合もあると考えるわけです」(冨本弁護士)
■一般社員との違いは?
役員と一般社員では、扱いに差は出るのでしょうか?
「一般社員のパワハラ・セクハラの場合も判断基準は同じです。パワハラ・セクハラに対する懲戒解雇について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められるかどうかで判断されます。
もっとも、役員が人事権等の優越的地位を利用してパワハラ・セクハラを行った場合、悪質性が高いとして、懲戒を行うべき合理的な理由、懲戒解雇の相当性が認められやすくなることは考えられます」(冨本弁護士)
役員であっても、就業規則に解雇規定が定められており、社会的通念上「解雇相当」と判断される場合は、一般社員と同じよう処理できるようです。
セクハラやパワハラは、人生を変えかねません。行わないようにしてください。
*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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