相次ぐ高齢者のペダル踏み間違え…認知症を患っていたら罪に問われない?

*画像はイメージです:https://pixta.jp/

高齢者の運転する車の事故報道を見聞きする機会が増えたのではないでしょうか。

よくあるのが、アクセルとペダルを踏み間違えるパターン。この操作をすると、意図せぬ暴走で惨事になることもあります。

統計によれば、交通事故の総数は減っていますが、65歳以上の高齢者ドライバーによる事故の割合は増加しているようです。

このデータもあり、2015年に道路交通法が改正されて75歳以上の認知症対策が免許更新時に行われ、免許返納制度も採用されました。

 

 

■暴走が認知症による勘違いから起こったら

問題は、たいていの事故が意図的な暴走運転ではなく、高齢者の勘違いから起こっていることです。もし、その高齢者に軽度の認知症が認められたとしたら、死傷者が出た場合でも罪に問われるのでしょうか?

星野宏明弁護士にお訊きしました。

「交通事故の加害者には、不法行為責任として、被害者に損害賠償をしなければなりません。これは民事上の責任で、たいていの方は事故に備えて任意保険に加入されていますよね。問題は刑事責任で、自動車運転過失致死傷罪に問われます」

では、事故を起こした高齢者が認知症だったら?

「これは認知症の進行具合によっては、刑事罰の責任能力がなく加害者本人は無罪となります。民事の場合は、運転していた加害者に監督義務者がいる場合、その人が相当の注意を尽くしていたと認められなければ、監督義務者が本人の代わりに賠償責任を負います。

認知症が軽度だったり、減弱がある場合は、有罪に問われますが、執行猶予が付される場合もありえます」

 

■認知症が認められたら運転させない環境を作る

重度の認知症を患う高齢者が車を運転するというのは、非情に怖いことです。

あげく、交通事故を起こして巻き込まれた側にとっては「そもそも、そんな人間が監督義務者が同乗していたとしても、運転させるのが間違っている」と憤りを感じるはずです。

となると民事でなんとかしたいと訴えることになるのですが、星野弁護士によれば

「認知症患者を介護している親族の負担と責任のバランスも考慮しなければならず、介護に疲弊していたり、運転ではいちいちどちらのペダルを踏んでいるか見るのは困難でしょう。

また、高齢者が高齢者を介護することも珍しくなく、監督義務者に賠償するだけの資力がない場合もあります。単に誰かに責任を負わせればいいという問題でないのですが、それでは被害者の気持ちの持って行き場がなく、救済を図る方法の模索をしなければならないでしょう」

と、現状では認知症患者に対する法や、被害者への救済が後手に回っています。

ただし、「認知症でない高齢者が事故を起こせば、それはただの過失です。量刑は死亡結果や負傷結果にとどまるか、被害者の数、適用罪名等、ケースバイケース」とのこと。

アクセルとブレーキの踏み間違いは若い人でもうっかりやってしまうことがあるので、慣れていることとはいえ、加齢に従って感覚も鈍くなりますのでご注意を。

そして、高齢者が家族にいるなら、可能であれば運転させずに若い家族がハンドルを握る環境を作るようにしたいものです。

 

*取材協力弁護士:星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)

*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。Twitterアカウントはこちら

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