AV出演拒否訴訟で懲戒審査へ…どんなときに弁護士は懲戒処分になる?

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今年1月、AV出演を拒否した女性がプロダクション会社から「契約違反だ」として2,460万円の損害賠償を求められた訴訟で会社代理人を務めた弁護士について、日弁連から所属弁護士会に懲戒審査を求められたと報じられました。

「懲戒」とは会社員や公務員などが職務や規律に反した際に与えられる制裁罰の総称ですが、弁護士の世界にも懲戒制度があるのです。弁護士の懲戒制度や現状、今回のケースについて、ともえ法律事務所の寺林智栄弁護士にお伺いしました。

 

■弁護士懲戒の種類と流れ

弁護士法やその弁護士が所属する弁護士会等の会則に違反し、弁護士会の秩序や信用を害したり、品位を失うべき非行があった場合に懲戒を受けると弁護士法56条では定められています。懲戒にはどのような種類があり、どのような流れで決められるのでしょう?

戒告…弁護士に反省を求め、戒める処分です

2年以内の業務停止…弁護士業務を行うことを禁止する処分

退会命令…弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動ができなくなる。弁護士となる資格は失われないので、他の弁護士会に加入できれば弁護士として活動できるようになる。

除名…弁護士の身分を失い活動ができなくなるだけでなく、3年間は弁護士資格も失う。

「懲戒処分の発端は、一般的には、懲戒の請求です。懲戒の請求は、誰でも行うことができます。事件やその弁護士となんら関係のない一般の方でもこれを行うことができます」(寺林弁護士)

前述のAV出演拒否訴訟のケースでも、女性らとは面識のない第三者から代理人弁護士への懲戒請求があったと報道されています。

「請求がなくとも、弁護士会又は日本弁護士連合会(以下、「弁護士会等」と言います。)がその所属する弁護士や弁護士法人について懲戒の事由があると判断した場合は、懲戒処分に向けての手続きが開始されます。

まず、弁護士会等の綱紀委員会という組織が、懲戒審査相当と言える事情があるかどうかという観点からの調査を始めます。懲戒審査とは弁護士法に定める懲戒処分を科すべきかどうか判断するための審査を指します。

ここで懲戒審査相当と判断されると、次は懲戒委員会と呼ばれる組織で懲戒処分を科すべきか、科すとしてどのような処分にすべきか議決により決定されます」(寺林弁護士)

 

■何をしたら「除名」される?

ところで、懲戒処分の中で最も重い「除名」ですが、どのようなことを行うと除名処分が下されるのでしょうか?

「数千万円単位の預り金の横領が多いようです。2016年10月には、出資金名目で依頼者から6,600万円を預かりこれを返金しなかった弁護士が除名処分を受けています。

また、判決文を偽造した弁護士が同じく2016年4月に弁護士会から除名処分を下されています。重大な犯罪行為に該当するような場合に除名処分になりうると考えていただければ良いと思います」(寺林弁護士)

 

■犯罪や品行ではなく「訴訟」が理由の懲戒請求は妥当?

さて、前述のAV出演拒否訴訟のケースですが、これはAV出演を拒否した女性に違約金請求の訴えを起こした会社側の弁護士が「提訴によりAV出演強制を助長し、弁護士の品位に反する」と懲戒請求されたものです。

弁護士懲戒の理由は着服や仕事の放棄などが多く、訴訟の内容が請求理由になるものは異例だそうです。

「ブログにも書きましたが、弁護士には一義的には依頼者の利益を守ることが求められ、依頼が必ずしも社会正義に合致しているとは限りません。

刑事事件では、犯罪を犯したことを認めている人の弁護活動をしますし、離婚事件ではDV加害者とされている側の代理人につくこともあります。

非道義的な依頼者の利益を守る側に弁護士が立つことによって、最終的にバランスが取れ、社会正義に反しない結論が導かれることもありえますし、その後の紛争や事件の発生を防ぐことも可能なのです。

ですので、単にこの女性相手に違約金の支払いを求める訴訟を起こしたこと自体が懲戒審査請求の対象とすべきという判断を日弁連が下したのだとしたら、それは、弁護士法3条の理念に反することになるでしょう。

しかし、今回の日弁連の審査相当という判断の根拠は、高額な賠償請求にあったようにも見受けられます。賠償請求の金額が不当に高額と言えるのだとしたら処分対象になる可能性もありますので、まずは“懲戒審査相当”として、懲戒委員会が審査を進めて行くのはやむを得ないのではないかと考えます」(寺林弁護士)

 

*取材協力弁護士:寺林智栄

*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)

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