■日本の方が被害者にとって有利に
したがって、日本では表現者が「表現内容が真実であること」(やその他の要件)を証明しなければならず、「真実かどうか分からない」という状態になった場合には、「真実ではない」ということになり、表現者が損害賠償責任を負うことになります。
一方、アメリカでは、被害者が「表現内容が虚偽(反真実である)こと」、「「現実の悪意」をもってなされたこと」を証明する必要があり、「表現内容が虚偽(反真実)であるかどうか分からない」、「「現実の悪意」をもってなされたかどうか分からない」という状態になった場合は、被害者の損害賠償請求は認められない、ということになります。
どちらの判断枠組みが被害者にとって有利(逆に言えば、表現者にとって不利)かといえば、日本のほうであることは明らかですね。
■「表現の自由」を推し進めるには
ところで、「真実」であることの立証には、ときとして困難が伴うことがあります(例えば、報道の場合は「取材源の秘匿」が要請されますが、その要請を守ることは、一方で、真実性の立証を十分にすることができないという事態を招くことになるでしょう)。
そのため、上述のとおり、真実であるとの立証ができなかった場合でも、「真実と信じたことに相当の理由がある」との立証ができれば、名誉毀損は成立しないとすることによって、表現の自由(の保障)とのバランスをとっているといえましょう。
また、公務員等に関する表現について一定の配慮(真実性(真実相当性)のみ立証すればよい)がされていることも、表現の自由への配慮にした結果、といえます。
そして、アメリカの例に倣ってさらに一歩進め、証明責任を転換する(「虚偽であること」を被害者が証明しなければならないとする)ことも、検討の余地があるのではないかと思います。
*著者:弁護士 櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。ブログ「ネットイージス.com」)
【参考】
産経フォト2016.9.2付「トランプ夫人が英紙を提訴 名誉毀損で155億円要求」
【画像】イメージです
*Debby Wong / Shutterstock
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