パワハラという言葉が社会的に認知されるにつれて、被害の報告も多くなっています。厚生労働省のパワハラ対策総合サイト「あかるい職場の応援団」が調査した過去3年間のパワハラに関する経験の有無(平成24年実施)では、パワハラを受けた経験があると回答した人は、25.3%と報告されており、約4人に1人が被害者となっている実情が明らかになりました。
パワハラは、行っている本人は自覚しづらいからこそ注意しなければいけない事柄です。そこで、和田金法律事務所の渡邊寛弁護士に、パワハラの定義とブラック企業問題について伺いました。
■パワハラの定義とは?
まず、パワハラの定義とは何かを再度確認しておきましょう。
「パワーハラスメントについては、平成24年に厚生労働省のワーキンググループが報告、提言を取りまとめています。ここでパワハラは、“同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為”と定義づけられています。
また、“職場内の優位性”が上司と部下という関係に限らず、人間関係や専門知識などの優位性まで含むことが明らかにされています。」(渡邊弁護士)
■典型的なパワハラの種類は6つ
業務でミスをした部下を叱りたいのだけど、どこまでが業務上の教育で、どこからがパワハラになるのかわからないといったことも多いと思います。
何が業務上適正な注意や指導を超えたパワハラであるかは、業務上の必要性、動機・目的、労働者の受ける不利益などからケースバイケースで判断することになります。下記の「典型的なパワハラ6類型」が、前述の提言で挙げられており、ここからある程度具体的なイメージができるかと思います。
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
「パワハラの加害者は、被害者の損害を賠償すべき不法行為責任を負いますが、会社も加害者の使用者として不法行為責任を負います。また、雇用契約上、会社(使用者)は従業員に対して安全配慮義務を負いますから、パワハラを防止したり止めさせる対策を取らなかったりした場合には、安全配慮義務違反として契約上の責任も負います。」(渡邊弁護士)
■「中小企業はどこも同じことをやっているから大丈夫」という考えは通用しない
経営の苦しい零細企業の経営者が、人材不足や資金不足を理由にブラック企業まがいのパワハラを強いるといった事例も数多く報告されていますが、こうしたケースでは「どこも同じことをやっているのだから大丈夫」という意識が根底に垣間見れます。本当に大丈夫なのでしょうか。
「労働者から裁判を起こされたときは、法律によって判断されます。ですから、“ほかも同じ”“法律どおりでは経営が立ちいかない”“俺の若いときは”という言い分は通用しません。労働関係の訴訟は増えていますし、ずさんな労務管理、ブラック体質が結果として大きな損失に膨らむケースも多いです。売上だけでなく、労務管理も経営能力の重要な要素と考えることが必要です。」(渡邊弁護士)
自分の勤める会社がブラック企業ではないのか、といったことで誰も悩みたくはないと思います。しかし、組織で働いていれば、その場の雰囲気に飲まれて人間関係のトラブルに巻き込まれることも想定しておかなければいけません。自分自身がパワハラの被害に合わないようにすることはもちろん、自分が上司になった時に、パワハラにならない部下の叱り方、仲間との接し方を知っておくことも大切なのです。
*取材協力弁護士: 渡邊寛(和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)
*取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)
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