警察による「自白強要」が刑事事件として扱われない3つの理由

もちろん、警察官の自白強要も脅迫罪、強要罪などの犯罪に当たり得ますが、以下の理由が原因で処罰されないのではと考えます。

・そもそも被疑者や弁護人が刑事責任を追及しようとしない

・刑事責任を追及しようと思っても取調べが密室で行われているため証拠がなく刑事責任の追及が困難である

・自白強要の兆しがある段階で弁護人が抗議して改善しており刑事責任を追及するまでもなくなった

この3つが大きな原因と考えられます。それでは脅迫罪、強要罪とは何か、憲法や規則ではどのような決まりになっているのか詳しく見ていきましょう。

牢獄

■脅迫罪・強要罪とは?

脅迫罪は、その人やその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対して危害を加えることを告知して人を脅迫した者に成立する犯罪です。

強要罪は、その人やその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対して危害を加えることを告知して人を脅迫したり、または暴行したりすることによって、人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりした場合に成立する犯罪です。

脅迫罪が保護しようとしている法的な利益は、個人の安心感、安全感ないし私生活の平穏です。

強要罪が保護しようとしている法的な利益は、個人の意志決定ないし意思実現の自由です。

こうした保護されるべき法的な利益は、侵害者が警察官だからといって守られなくなる理由はありません。したがって、警察官の自白強要も脅迫罪、強要罪の要件を充たすのであれば犯罪となります。

警察の取調べだからといって違法性がなくなるわけではありません。

 

■自白の強要は許されず、証拠としないという決まりがある

そもそも被疑者には自白の強要からの自由があります。

日本国憲法は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」と明記しています。

日本国憲法は、「強制、拷問もしくは脅迫による自白または不当に長く抑留もしくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」とも定めています。

また、警察を管理する機関として国家公安委員会がありますが、国家公安委員会は、取調べ適正化のための監督に関する規則を定め、以下のような取調べを監督の対象としています。

(1)やむを得ない場合を除き、身体に接触すること

(2)直接または間接に有形力を行使すること

(3)殊更に不安を覚えさせ、または困惑させるような言動をすること

(4)一定の姿勢または動作をとるよう不当に要求すること

(5)便宜を供与し、または供与することを申し出、もしくは約束すること

(6)人の尊厳を著しく害するような言動をすること

………

以上のような取調べは許されないわけです。

したがって、被疑者の取調べだからといって、脅迫罪や強要罪が成立しないわけではないと考えられます。

 

■そうは言っても告訴は難しい現実

被疑者や弁護人が違法な自白強要を追及しなければ犯罪として扱われることもありません。

また、取調べは密室で行われるため、録音などをしなければ証拠としては被疑者の言い分しかありません。

そうなると証拠不十分ということになりますので、被疑者や弁護人としても、とりあえず苦情を申し出ることくらいはできますが、刑事告訴することまでは難しいということになるわけです。

また、弁護人によっては、被疑者から自白強要を含む違法捜査の兆しを感じ取った場合、直ちに捜査機関に抗議しますので、それによって改善すれば刑事責任を追及するまでもないといったことになる場合もあるかと思います。

 

*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)

冨本和男
冨本 和男 とみもとかずお

法律事務所あすか

東京都千代田区霞が関3‐3‐1 尚友会館4階

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