会社員のSさん(20代・男性)は、仕事で発注ミスをしてしまい、会社に5万円の損害を与えます。深く反省し、始末書を提出したのですが、上司から厳しく叱られてしまいました。
給料から天引きの通達…
平謝りでなんとか事態が収まったと思ったところ、会社から無慈悲な通達が。損害分を給与から天引きするというのです。Sさんは5万円も引かれてはたまらないと抗議しますが、「ミスしたのだから我慢しろ」と却下されてしまいました。
給与から損害金を天引きされることに納得いかないSさん。確かに損害を与えたことは反省するべきですが、だからと言ってそれを給料から天引きし負担させられることは、やはり理不尽に思えます。
Sさんがネットで調べてみると、同じような被害を受けている人が一定数存在しているようでした。
損害を給与から天引きするという行為。これは許されるものなのでしょうか?
銀座さいとう法律事務所 齋藤健博弁護士にうかがいました!
天引きは許されるのか?
齋藤弁護士:「これは明確に禁止されています。
労働基準法17条は、会社からの前借金との相殺を禁止しているにとどまるようにも思えます。
しかしながら、実は最高裁判所の判例によって明確に禁止されています。著名な判例ですが、「日本勧業経済会事件」という、古くから定着している最高裁の判例により、禁止されているのです。
前借金の返済義務と損害賠償義務は、いずれも金銭債務なので実質的には同じであるという理由によるものですね。
ちなみに、契約違反としての債務不履行を原因とする損害賠償義務も同じです。ですから、禁止される以上、賃金全体を請求することが可能となるのです」
我慢する必要はない
ブラック企業など、社長がワンマンで経営する会社の場合、その立場を盾に損害を給与から天引きすることがあると聞きます。また、なかには営業利益が出ない営業マンに対し、ノルマ達成できなかった分を天引きするケースもあったようです。
違法とわかっていても、立場の弱さから泣く泣く我慢する労働者もいると聞きます。しかし、それは明らかな違法行為であり、許してはいけません。
なかなか難しい部分もあると思いますが、給与天引きを打診された場合は、きっぱりと断り、弁護士や労働基準監督署などに被害を訴えていくことをおすすめします。
我慢してしまっては、悪徳経営者の思う壺です。
*取材協力弁護士: 銀座さいとう法律事務所 齋藤健博弁護士(弁護士登録以降、某大手弁護士検索サイトで1位を獲得。LINEでも連絡がとれる、超迅速弁護士としてさまざまな相談に対応。特に離婚・男女問題には解決に定評。今日も多くの依頼者の相談に乗っている。弁護士業務とは別の顔として、慶應義塾大学において助教も勤める。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)