一般企業ではほとんどの会社で「人事評価」が行われています。通常部署の監督者が働きぶりや成績などを考慮したうえで査定し、評価が決まります。
そうなると当然監督者への印象度も評価を分けるポイントになってしまいます。なかには、仕事ができないことをカバーするために上司にゴマをすり、印象を良くしようとする社員もいるようです。
■上司の評価が低いと……
逆に言うと仕事ができるにもかからず、上司との折り合いが悪い場合、評価が低くなることがあります。このような場合、評価される側としては不当性を訴えたいところ。
とくに自分が会社に貢献しているという自負がある場合は、なおさらでしょう。人の好き嫌いで評価をしているとなれば、公平な判断のできない上司を「辞めさせたい」と思うはず。
このような場合、部下側から不当性を訴え、上司を辞めさせることは可能なのでしょうか? 法律事務所あすかの冨本和男弁護士にお伺いしました。
■明らかに不当な評価の場合上司を辞めさせることはできる?
「人事権の行使の限界についての議論からの推測でお話しますと上司の人事評価が、権利の濫用に当たり違法と評価できる程度であれば、使用者(会社)や上司に対して適正な人事評価を求めたり、降格の無効を主張したり、損害賠償を請求することができるのではと考えます。
降格の場合、降格について業務上・組織上の必要性があったかなかったか、あったとしてどの程度必要だったか、能力や適正が欠如していた等労働者の方に責任があったのかなかったのか。
また、あったとして労働者の責任はどの程度か、降格によって労働者はどの程度の不利益を受けるのかといった様々な事情を元に、使用者による人事権の行使(労働者の降格)が社会通念上著しく妥当性を欠くかどうか、権利の濫用に当たるかどうかが裁判になった場合に判断されると考えられます。
以上は、使用者の人事権の行使についてですが、上司の人事評価についても、それが使用者の人事権の行使に影響する以上、同様に考えることができるのではと考えます。
人事評価を行う上司は、裁量によって部下の人事評価をすることができるとしても、濫用することは許されないだろうということです(労働契約法3条5項)。
したがって、上司が人の好き嫌いだけで部下の人事評価を行っているのが明らかであり、労働者の方に能力や適性が欠如しているという事実もなく、人事評価によって労働者が被る不利益が大きい場合、人事評価の濫用として違法となり、使用者及び上司に対し、違法な人事評価の是正を求めたり、降格の無効を主張したり、損害の賠償を請求することができるのではと考えます。
なお、不当な人事評価を行った上司をやめさせることができるかどうかですが、上司の人事は使用者(会社)が決めることですので、労働者としては上司の交代を直接求めることはできないのではと考えます。
しかし、使用者は職場環境に配慮する義務を負っていますので(労働契約法5条 安全配慮義務)、労働者が使用者に改善を求めたのに対し、使用者が何の対応もせず放置し、その結果、労働者が精神疾患を発症したような場合、上司に対してだけでなく、使用者に対しても、職場環境配慮義務違反を理由に損害の賠償を請求することができるのではと考えます」(冨本弁護士)
評価する人間が「人の好き嫌いだけで評価していると明確に判断される場合は、評価の是正などを求めることができる場合もあるようです。
もちろん、求めるにはそれ相応の根拠が必要となります。まずは弁護士に相談し、根拠の正当性や対策を練るのが良い選択ではないでしょうか。
*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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