昨今、芸能人や一般人に対して「ドッキリ」を仕掛ける番組が増加しています。「ヤラセ」ではないかとの声もありますが、仮に本当に騙している場合、少々「やりすぎ」と感じることもあります。
場合によっては、騙された側がドッキリと告げられ、怒り出すことも。通常このような場合は番組側が謝罪するなどしてとりなすため、問題にはならないのですが、あまりにも度が過ぎる場合は、「提訴」に踏み切ることもあるかもしれません。
「ドッキリ番組」で騙された側が違法性を主張することはできるのでしょうか? パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士にご意見を伺いました。
■違法性を主張することはできる?
「ヤラセではなく“本当に騙している”、つまりそのような“ドッキリ”を仕掛けられることについて本人の同意を得ていないということであれば、それが民事上の不法行為、あるいは刑事上の犯罪行為にあたる場合には、損害賠償責任を負ったり、刑罰が科せられたりする可能性があります。
例えば、対象者が所有する自動車のタイヤをパンクさせるという行為をドッキリとしておこなった場合、当該行為は“器物損壊”として、民事上の損害賠償責任を負う可能性と、刑事上の犯罪として刑罰を受ける可能性(3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料。刑法261条)があるといえます。
なお、“ドッキリ”の具体的内容によっては、対象者の権利や利益を侵害していない、あるいは損害が生じていないとして、法的な責任を負わないというケースもあるかもしれませんが、例えば、大声で人を驚かすというようなドッキリについては、人の左耳もと近くで携帯用拡声器を通じてやにわに大声で“市長”と怒鳴りつけた行為を、暴行罪(刑法208条)にあたると判断した裁判例があります(大阪地裁昭和42年5月13日判決・判時487号70頁)ので、状況によっては同じように“暴行”と判断されることもあるでしょう。
ですから、“これぐらいなら大丈夫だろう”と軽率に判断し、行為に及ぶことは控えたほうがよいと思います」(櫻町弁護士)
ヤラセではく本当に騙されている場合、その内容によっては違法性を主張できることもあるようです。
■肖像権侵害の可能性も
「また、“ドッキリ”の場合は、対象者の驚いている様子等を撮影し、これを放送することになると思いますが、本人の同意を得ないで容貌等を撮影する行為、また、それを不特定多数に公表する行為については、“肖像権侵害”として民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
例えば、刑事裁判の被告人につき、法廷での容貌などを撮影した行為、及びその写真を週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為にあたるかが争われた裁判で、最高裁判所は(“肖像権”という表現は使っていませんが)“人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する”、“人は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当”としています(最高裁判所平成17年11月10日判決民集59巻9号2428頁)」(櫻町弁護士)
本当に騙されているとするなら、法律違反が発生する可能性が高い番組であるようですね。
*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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*あんころもち / PIXTA(ピクスタ)
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