わいせつな行為をしたとして逮捕された教師が、実は5回目の逮捕だったというニュースがありました。
当該教師は2013年に児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪で、罰金の略式命令を受けたあと、改名をすることにより2015年に臨時講師として採用され、教壇に立ち続けていたそうです。
改名がなされていないのであれば、採用の段階で過去の犯罪歴に気がつき採用とはならなかったのではないかと思われますが、どういった場合に名前を変更することが出来るのかについて、今回は解説したいと思います。
■どんな場合に名前の変更はできるのか
人の名前のことを法律上「名」といいますが、その人の呼び名のことをいいます。
「名」は、「氏」(=一定の家族についての呼び名)と一体(「氏名」)となって、その人であることがわかるようにするためのものです。要するに、「名」には、個人を特定・識別する機能があるわけです。
親は子どもが生まれた後、「名」を決めて出生届をすることによって決まります。
「名」は、個人を特定・識別するという重要な機能があるわけですから、「名」を変更するためには、「正当な事由」が必要であり、「正当な事由」を主張して家庭裁判所の許可をもらい、その上で役所に届け出ることが必要です。
「正当な事由」のある場合とは、
(1)営業上の目的から襲名する必要がある
(2)同姓同名の者がいて社会生活上著しい支障がある
(3)神官や僧侶となったとか、神官や僧侶を辞めるのに改名する必要がある
(4)珍名な名、外国人に紛らわしい名、甚だしく難解・難読の文字を用いた名等で社会生活上甚だしい支障がある
(5)帰化した者で日本風の名に改める必要がある
といった場合です。
■今回のケースでは
通常、「名」の変更をする際は上記で解説した5例に当てはまるケースが多いですが、中には過去の犯罪歴を隠すために改名するケースもあるようです。
しかしながら、犯罪者が犯罪歴を隠すためだけの場合「正当な事由」があるとは認められないでしょう。
「名」の変更が認められるかどうかは、「正当な事由」があるかどうかによりますので、詳しくは知りようがないですが、今回のケースでは家庭裁判所によって「正当な事由」が認められたのだと思います(公判を傍聴すれば分かるかもしれません)。
一方で、犯罪者でない者が同姓同名の犯罪者がいるという理由で「名」を変更する場合には「正当な事由」があると認められるでしょう((2)の同姓同名の者がいて社会生活上著しい支障がある場合です)。
■偽名で履歴書を作成し採用面接に臨んでいた場合は…?
一方で、「名」を変更するのではなく、履歴書に記載する名前が偽名だった場合はどうでしょうか。
この場合、有印私文書偽造・同行使の罪になると考えます。
有印私文書偽造は、「行使の目的で、他人の印章または署名を使用して…事実証明に関する文書…を偽造」(刑法159条1項)した場合に成立します。
有印私文書偽造の保護法益は、私文書に対する社会の信用です。履歴書は、求職者が自身の氏名・経歴等の事実を証明するために用いられるわけですから事実証明に関する文書といえます。
偽造とは、名義人でない者が名義を冒用して文書を作成する行為ですが、他人の名義を勝手に使った場合はもちろん、架空人の名義を使った場合も偽造です。
有印私文書偽造の罪を犯した場合、「3月以上5年以下の懲役」で処罰される可能性があります。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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