先日、ある掲示板の運営者がネットTVに出演。累計30億円という多額の損害賠償請求を受けていることを明かしたうえで、「踏み倒した」と発言しました。
彼によると賠償請求は10年経過すると時効となるそうで、「そんなものは払わなければいい」などと発言。その態様が物議を醸すことになりました。
民事裁判で賠償義務が認められているにもかかわらず、「無視して踏み倒す」行為は、やはり許されていいものではないように思われます。強制的に支払いを迫ることはできないのでしょうか?
星野法律事務所の星野宏明弁護士にお訊きしました。
■支払いに応じない場合強制執行を行うが……
「民事では、債務者の預金や不動産、現金その他財産の差押によって、債権者の金銭債権を回収することになっています。これを強制執行といいます。
強制執行するためには、支払いを命じる判決などの債務名義が必要です。損害賠償を命じる判決もこの債務名義となりますが、債務者が判決で命じた内容に従って任意に支払いをするとは限りません。
そうすると、判決の内容を強制的に実現するために、強制執行をする必要があります。しかし、強制執行するために、債権者側で債務者の保有している財産を調査し、裁判所からは時に現実的には困難なまでの財産の特定を債権者側に求められることがあります。
そのようなとき、賠償を命じる判決に債務者が従わない場合であっても、
(1)債権者側が債務者の財産を調査できない
(2)債務者に本当に財産がない
に該当する場合は、強制執行しても実際には債権を回収できないことになります」(星野弁護士)
■踏み倒しても刑事罰にはならない
「実際の事件では支払いを命じる判決があっても、債権者側が債務者の財産を調査できない場合や、債務者に本当に財産がないケースはかなり多数あります。
このような場合、執行官の強制執行妨害など積極的な妨害をしない限り、判決にただ従わないだけでは判決を無視して踏み倒しても犯罪ではないので刑事罰になりません。
したがって現状は、債務者が判決に従わず財産が不明か不存在のため強制執行による判決内容実現も不可能で、事実上支払いを命じる判決を踏み倒されるケースは多数に上ります」(星野弁護士)
■法改正での改善が期待される
「現在の運用では、預金などを金融機関の本店に一括して調査照会できないなどの不都合もあり、踏み倒しとなるケースが後を絶ちません。
民事執行法改正により、債務者の預金の金融機関本店への一括調査手続きの導入などが議論されているところであり、今後の改善が期待されますが、それでも債務者に本当に財産がない場合には債権回収の対策のしようがありません」(星野弁護士)
残念ながら損害賠償請求を「踏み倒す」行為は、現状可能となってしまっているようです。今後の制度改善に期待したいところですね。
*取材協力弁護士:星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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