電車内での痴漢行為を疑われた男性が逃走し、線路に降りたりビルから転落したりして死亡するという事故が続きました。この数カ月、嫌疑をかけられた男性が同様に逃走してトラブルになるケースが相次いでいます。
痴漢行為を疑われた際に「逃げる」ことが得策でないことは当サイトでも複数の弁護士が指摘していますが、ネット上では「痴漢冤罪を回避するためにはその場から逃げろ」というアドバイスが未だに多く見られます。
一度逮捕されてしまったら疑いを晴らすことが難しいというイメージは根強いようです。
疑いを晴らすためには証拠が必要となります。この時、重要になるのが周囲の目撃証言です。そこで今回は、痴漢行為を目撃した際側の振る舞いについて、エジソン法律事務所の大達 一賢弁護士にお聞きしました。
■捕まえる前に証拠保全を
痴漢行為を目撃した際に望ましい行動や、目撃者としてできることなどがあれば教えてください。
「逮捕した際に言い訳を許さないように、また冤罪の疑いがある場合にはそれを晴らすための証拠保全をしておきたいところです。携帯電話の写真や動画の撮影、周囲にいる他の方々との事実認識の共通化などです。
その上で、痴漢をしている人物のうち、実際に痴漢行為に及んでいる手などを掴み、痴漢行為に及んでいるのが誰なのかを、改めて写真や動画などを撮影しておくことが望ましいです。
刑事訴訟法は現行犯逮捕については何人たりともできると規定していることから(213条)、逮捕の正当性を後に証明できるようにしておきたいところです」(大達弁護士)
映像などの証拠があれば、犯行を立証しやすくなります。被害者や目撃者の記憶による証言以外の重要な証拠となることでしょう。
痴漢を捕まえる際は、目撃者としてどのようなことに注意すればいいですか? 被害者の助けになるためにはどのようなことが必要でしょうか?
「一度痴漢の犯人だと思い込んでしまうと、思考が狭くなってしまい、重要な事実を見落としてしまうことがあります。
まずは、何かの拍子に手や足などが当たっているだけなのではないか、他に犯人と思しき人物がいないか、などをよく観察してください。
この時に必要なのは、“痴漢がするであろう言い訳を封じることができるのか否か”、また逆に、“この人が本当に痴漢行為をしていたといえるのか、事実認識に誤りはないか”という観点だと考えます。
慎重になりながらも、かつ犯罪行為を見逃さぬよう冷静な目線で観察し、その上で先に述べたとおり証拠保全を行うよう注意してください」(大達弁護士)
被害者の苦痛を思えば痴漢を取り押さえることが最優先に思えるかもしれませんが、取り違えによる冤罪を防ぎ犯行を確実に立証するために、落ち着いて観察し証拠を残しましょう。
■決めつけは絶対ダメ!
それでは、目撃者としてしてはいけないことは何でしょう?
「何らの証拠も確証もないにもかかわらず、一方的な決めつけで痴漢呼ばわりをするということは、してはいけません。
いたずらに冤罪を招くことにつながりかねないばかりか、実際に犯人であったとしても、証拠不足であることから逃げ得を許すことにもなりかねません。
また、被害者を辱めることにもつながる恐れがあります。目撃者の不確実な証言により痴漢の冤罪が生まれた過去事例も少なくありませんので、常に冷静に物事を観察することが肝要です」(大達弁護士)
取り違えによる痴漢冤罪は、被害者だけが起こしているわけではありません。決めつけや不確実な証言は、被害者にとっても痴漢行為を疑われている人にとっても迷惑なものです。大切なのは正しい状況把握、そして証拠です。
痴漢冤罪という悲劇をこの社会から減らすには、自分が疑われないようにするだけでなく、誰もが痴漢に対して冷静に適切に対応することが大切なのではないでしょうか。
*取材協力弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)
*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)
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* Matej Kastelic / Shutterstock
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