安倍首相は、2017年1月5日の党役員会において、「テロ等組織犯罪準備罪」の新設を目的とした組織犯罪処罰法改正案を今期の通常国会での提出・成立を目指す意欲を示したとの報道がありました。
この改正法案については、菅官房長官による「一般人は(適用の)対象外」との発言が批判されたことに表れているように、結局は600を超える犯罪について共謀罪を新設して処罰範囲を広げるための法律だとの意見が出されています。
そこで、今回は、テロ等組織犯罪準備罪(以前の共謀罪)とは何かについて、その新設の目的とともに、反対意見を踏まえながら解説したいと思います。
■テロ等組織犯罪準備罪とは何か
報道によれば、政府案は、(1)4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することを目的とする団体が(2)その団体の活動として、(3)具体的・現実的な犯罪計画に基づき、(4)犯罪実行のための準備行為を行うこと等をテロ等組織犯罪準備罪の成立要件とするようです。
そのため、政府は、友人同士の集まりやPTAなどはもちろん、一般の市民団体は同罪の適用対象外であることをプッシュして国民や与党内の理解を求めています。
■団体の存続目的はどう判断? 健全な団体のプライバシーが侵害される恐れも
しかし、団体の存続目的が犯罪実行であるのではないかと疑われた場合には捜査が開始され得るわけですから、実際には犯罪目的ではなく適法な活動を行うことを目的とする市民団体に対し、通信傍受等の捜査が行われて、構成員の通信の秘密やプライバシーの権利が侵害されるおそれは否定できません。
特殊詐欺(振り込め詐欺など)を行う集団が、会社形態をとって通常の事業活動に見せかけ、法人名義で架電のための部屋を賃借することを行っている事実があるように、団体の存続目的は一見して明確にわかることは多くありません。
そして、特殊詐欺集団の場合は、部屋を借りる行為や法人名義の口座開設行為が犯罪実行のための準備行為に当たるわけです。
このように、団体の存続目的という外観からは一見して明らかでない要件によって、事業活動行為が犯罪の構成要件に該当するか否かを左右しかねないわけですから、やろうと思えば、政府は、正当な捜査目的を盾に、気に入らない思想を持った特定の団体を捜査対象とすることも可能になってしまいます。
■今後さらに慎重な議論が必要
犯罪遂行意思の連絡・謀議という「共謀」と単純な準備行為のみで犯罪が成立するとすれば、実害発生なしに、共謀にかかわったとされる多数の人を処罰することが可能になってしまい、日本の法体系を破壊するものとの批判も寄せられています。
政府は国際組織犯罪防止条約の締結、批准のためにはテロ等組織犯罪準備罪の新設が必要不可欠と説明していますが、日弁連は、国際組織犯罪防止条約締結のためには犯罪の未遂に至る前の段階における処罰規定があれば足り、一定の重大犯罪について予備罪を設ける等の対応によるなど、共謀罪を新設する必要まではないと指摘しています。
また、諸外国との協議内容の重要な部分が公開されておらず、共謀罪を新設しなくても足りるとする従前の日本提案が受け入れられなかったという説明の真偽を検証できないことも併せて指摘しています。
2020年の東京オリンピックの開催に向けてテロ対策を整えるという目的は正当なものかもしれませんが、テロ等組織犯罪準備罪の新設、対象犯罪については、さらに慎重な議論が必要不可欠だといえましょう。
*著者:弁護士 木川雅博 (企業法務(会社運営上生じる諸問題)、売買代金・貸金請求、損害賠償・慰謝料請求、不動産を巡る法律問題、子どもの事故、離婚・男女間のトラブル、相続問題,破産・民事再生・債務整理、労働問題など、法人・個人を問わず様々な案件を扱っています。趣味は料理とランニング。東京弁護士会。星野法律事務所)
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