日本で乳幼児用のミルクと言えば、誰もが粉ミルクを思い浮かべます。しかし、海外では、液体ミルクが主流です。今年の4月、熊本地震の際にフィンランドから救援物資として液体ミルクが送られ、液体ミルクが一気に注目を浴びました。
粉ミルクは70度以上のお湯で粉を溶かした後、冷ましてからでなければ赤ちゃんに与えることができません。被災地や外出時などにすぐに飲ませることができないのです。対して液体ミルクは災害時もすぐに赤ちゃんに飲ませることができます。
では、なぜ、日本では今まで液体ミルクが普及していなかったのでしょうか。また、今後普及するのでしょうか。今回はこの点について解説していきます。
■食品衛生法の規格基準の問題
食品衛生法上、販売用の食品や添加物の加工、使用、保存等については、厚生労働大臣が規格基準を定めることとされています。液体ミルクは、乳幼児用のミルクとして、この規格基準が設けられていませんでした。そのため、製造販売することができず、日本では普及していなかったのです。
液体ミルクの規格基準が設けられていなかった理由については明らかではありませんが、生乳を衛生的に長期間保存するためには粉末状にするのが適切であると考えられていたからではないかと推察されます。
しかし、液体ミルクは高温滅菌後に密封しているため、むしろ粉ミルクよりも衛生的であるというデータもあるといわれています。また、先に見たとおり、液体ミルクの方が利便性が高いことは明らかです。
■液体ミルクの解禁と普及に向けた課題とは
しかし、政府は現在、液体ミルクを解禁し、これを普及することを検討し始めました。年度内にも安全基準等に関する議論をまとめて食品業界側に安全確認試験の実施などを求め、最終的には省令を改正して規格基準を設ける方向性で調整しているといわれています。
政府が液体ミルクの解禁に向けて舵を切ったのは、近年日本で大規模地震が多発し、災害時の食料確保の問題が現実化していることや、男性の育児参加を促進する目的など、様々な背景があるといわれています。
政府が現実的に解禁に向けて舵を切ったといっても、液体ミルクの商品化は粉ミルクの商品化よりも高いコストがかかるともいわれています。
厳しすぎる基準を設ければ、企業のコストが高くなり、結局は企業側が商品化に踏み切ることを躊躇する可能性もあり得ます。最終的に省令が改正され、液体ミルクの規格基準が設けられるまでは、しばらく時間がかかるのではないでしょうか。
利便性が高い液体ミルクではありますが、食の安全も叫ばれて久しい昨今の状況を考えると、安心に赤ちゃんにも飲ませることができ、かつ、お財布にも優しい液体ミルクを普及させるためには、なお慎重な検討を要するとしても仕方ないかもしれません。
*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)
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