相続法について、法務省から今年6月に発表された改正に関する中間試案としては、「高齢化社会」ということをキーワードに、5つの柱が示されています。この内、前回の記事では「遺産分割」「遺言制度」「遺留分制度」の3つの制度の見直しについてご紹介いたしました。
今回は、「配偶者の居住権」「相続人以外の貢献」という検討中の新たな2つの方策に絞って解説したいと思います。
相続の効果は相続開始の時まで遡ると現行法上規定されていることから、もし被相続人と同居していた配偶者以外の者が、その同居していた建物などを相続した場合に、相続確定時まで住んでいた配偶者が不法占拠状態になってしまうという問題が生じます。さらには配偶者が高齢者だった場合、そのままそこに住み続けたいという希望を叶えるための配慮が、現行法上にはないという問題もあります。
また、現行法上、相続人以外の者の相続財産形成に対する寄与は、原則として認められず、例外として相続人が不存在の場合に初めて特別縁故者として保護される程度であり、被相続人の介護をした長男の嫁などの存在が蔑ろにされているところに問題があります。
これらが改正案ではどのような対処がされているか、見ていくこととしましょう。
■配偶者の居住権を保護するための方策
(1)短期居住権
配偶者の一方(被相続人)が死亡した場合でも、他の配偶者(生存配偶者)は、それまで居住していた建物に引き続き居住することを希望するのが通常です。特に、相続人である配偶者が高齢者である場合には、住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を立ち上げることは精神的にも肉体的にも大きな負担となりますので、高齢者社会の進展に伴い、配偶者の居住権を保護しようという試みです。
現在では、判例(最高裁平成8年12月17日判決)で遺産分割終了時まで使用貸借が成立していたものと推定することで保護していましたが、これを明文化しようとしたものです。
①遺言等がない場合
遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間、引き続き無償でその建物を使用することができるものとする試みがあります。
②遺言等により配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合の特則
被相続人の配偶者は、相続開始の時から一定期間(例えば6ヶ月間)は、無償使用ができるものとする試みがあります。
(2)長期居住権
これとは別に、生存配偶者が住み慣れた居住環境での生活を継続するために居住権を確保しつつ、その後の生活資金としてそれ以外の財産についても一定程度確保したいという希望があります。これまでは、配偶者がその建物の所有権を取得するか、その所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約等をする必要がありました。
しかしながら、買い取る場合にはその後の生活資金が不安になりますし、借りるにしても合意が成立しないとどうにもなりません。
そこで、終身又は一定期間、配偶者にその使用を認めることを内容とする法廷の権利を創設し、遺産分割等における選択肢の一つとして、配偶者に長期居住権を取得させることができるようにする試みがあります。
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