北陸新幹線工事談合で国交省が「勧告」どういう意味?

先日、国土交通省が独占禁止法違反で起訴された会社の代表者を同省に呼び、建設業法に基づいて、社内の法令順守体制の整備を勧告したとのことです。

今回は、この「勧告」がどのような意味を持っているのか、勧告に従わない場合どういった処分があるのかについて解説したいと思います。

国交省勧告

■「勧告」の意味について

「勧告」とは、ある行動をとるように説きすすめることを意味しますが、国土交通省等の行政機関が民間業者に対して行う勧告は行政指導の一種です。

「行政指導」とは、行政機関がその任務または所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為または不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいいます(行政手続法2条6号)。

行政指導である勧告は、処分に該当しないため法的な強制力がなく、勧告を受けた者が自由な意思に基づいて勧告に素直に従うことを期待するものですが、法的な強制力を持つ監督処分に先立って行われます。

行政機関の勧告に従わず放置していれば、監督処分を受ける可能性が高くなります。

したがって、行政機関の勧告に従わなくてもいいというわけではありません。

■「勧告」に従わない場合について

行政機関の勧告に従わない場合、監督処分を受ける可能性があります。

「監督処分」とは、行政機関が、法令に違反している者に対し行うものであり、法的な強制力があり、法令違反者の権利義務ないし法律上の地位に直接具体的な法律上の影響を与えるものをいいます。

監督処分について、種々ありますが、建設業法においては、指示(同法28条)、営業の停止(同法28条)、許可の取消し(同法29条)、営業の禁止(同法29条の4)の4つが定められています。

建設業法において定められている監督処分は、建設工事の適正な施工を確保して、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発展を促進し、公共の福祉の増進に寄与することを目的として認められる処分です(建設業法1条)。

国土交通省や都道府県知事は、監督処分によって、不適正な者の是正を行ったり、不適格者を建設業者から排除したりするわけです。

■「指示」の意味について

「指示」とは、法令違反や不適正な事実の是正のために具体的にとるべき措置を命令するものです。要するに、こうしてくださいと命令するものです。

指示は、建設業法によって監督処分の対象とされている不正行為等が故意または重過失によらない場合に原則として行われるものとされています(建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準 三 監督処分の基準 1 基本的考え方(1))。

要するに、指示は、不正行為等が過失(うっかり)により行われたものでそれほど悪質でなく情状が軽い場合に行われます。

指示処分には法的拘束力がありますので、指示処分を受けた者は、処分が取り消されない限り、指示処分に従わなければなりません。

指示処分を受けた者は、処分に不服がある場合、行政不服審査法に基づいて審査請求や異議の申立をしたり、行政事件訴訟法に基づいて抗告訴訟を起こしたりする必要があります。

■「営業の停止」の意味について

「営業の停止」とは、新たな請負契約を締結したり、入札したり、見積したりする行為を停止させる処分です。

営業の停止は、建設業法によって監督処分の対象とされている不正行為等が故意または重過失による場合に原則として行われるものとされています(国土交通省 建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準 三 監督処分の基準 1 基本的考え方(1) 参照)。

指示処分に違反した場合やわざとやっている場合等、悪質な場合です。

営業停止処分を受けた場合、仕事を新たに受注するような行為は許されませんが、既に締結していた請負契約にかかわる建設工事について引き続き施工することができるとされています。これは注文者が工事中止によって不測の損害を被らないようにするためです。

不服がある場合、審査請求・異議申立・抗告訴訟ができるのは、指示処分の場合と同じです。

■「許可の取消」の意味とは

「許可の取消」とは、文字通り建設業の許可の取消です。

許可の取消は、不正行為等に関する建設業者の情状が特に重い場合や建設業者が営業停止処分に違反した場合に行われます。

許可の取消を受けた場合、処分を受けた者は、以後許可を取り消された建設業について原則として営業することができなくなります。

不服がある場合、審査請求・異議申立・抗告訴訟ができるのは、他の処分の場合と同じです。

■「営業の禁止」の意味とは

「営業の禁止」とは、営業の停止または許可の取消の処分を受けた建設業者などの役員または使用人などによる営業の禁止です。

建設業者が営業の停止または許可の取消の処分を受けた場合、その役員や使用人も営業することが許されないということです。

営業の禁止は、建設業者の役員や使用人が、自ら別会社を作ったり、別の建設会社の役員となったりして監督処分を免れようとすることを防止し、監督処分の実効性を確保するために認められている処分です。

不服がある場合、審査請求・異議申立・抗告訴訟ができるのは、他の処分の場合と同じです。

以上のように監督処分には種々ありますが、不正行為等の内容・程度、社会的影響、情状等を総合的に勘案して行われています(国土交通省 建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準 二 総則 1 監督処分の基本的考え方 参照)。

*参考:時事ドットコム:8社に法令順守を勧告=北陸新幹線工事談合で-国交省

冨本和男
冨本 和男 とみもとかずお

法律事務所あすか

東京都千代田区霞が関3‐3‐1 尚友会館4階

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