西日本豪雨や大阪地震で批判を浴びた被災者の実名報道 違法ではないのか弁護士が解説

6月に発生した大阪北部地震や7月の西日本豪雨は、人々の生活に重大な影響を与えました。住居の倒壊や土砂災害などで、命を落とした人々も存在しています。

そのような場合家族としては「そっとしておいてほしい」と思うものですが、メディアは大々的に被害者の実名を報道し、全国へと発信。視聴者からは「ほっといてやれ」「なぜ実名を流すんだ」と批判されている状況です。

メディアは「報道の自由」を主張しているようですが、個人のプライバシーを侵害しているようにも思えます。法的に見て、問題ないのでしょうか?パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に見解をお伺いしました。

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■非常に難しい問題

櫻町弁護士:「地震や津波、豪雨などの災害でお亡くなりになった方のご遺族、あるいは、行方が分からず安否不明とされた方のご家族の中には、自分の家族が死者・行方不明者として報道されることを望まない方もいらっしゃると思います。

ただ、そうした「公表を望まない遺族・家族」が、死者・行方不明者の氏名等を報道した報道機関に対して損害賠償請求をした場合に、これが認められるかどうかはなかなか難しい問題です。

こうした損害賠償請求が認められるためには、第三者の行為(この場合は「報道」)によって、「権利あるいは法律上保護される利益」(民法709条)が侵害された、といえなければなりません。

そこで、「自分の家族が死者・行方不明者として報道されたこと」についてどのような権利あるいは利益が侵害されたかについて考えてみると、「プライバシー」や「静穏に故人を悼む利益」、「敬愛追慕の情」などがあげられるでしょう。

しかし、「プライバシー」として保護されるためには、一般に、公表される事柄が

ア 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること
イ 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによつて心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること
ウ 一般の人々に未だ知られていないことがらであること

という要件を満たす必要があるとされています(東京地方裁判所昭和39年9月28日判決・判タ 165号184頁)。

「自分の家族が災害で亡くなった、行方不明になったこと」が報道された場合、上記のうちアとウについては満たすといえると思いますが、イについては、(当該家族がどう思ったか、感じたかではなく)一般人の感受性・感覚に照らしてみた場合に「公開を欲しない」あるいは「心理的な負担、不安」を覚えるということが言えるか、判断が分かれ得るように思われます」

 

■損害賠償責任が生じないこともある

さらに、プライバシーにあたる場合であっても、それを公表されない法的利益よりも、公表する理由が優越するときには、公表は違法ではなく、プライバシー侵害による損害賠償責任は生じません。

この点について、例えば東京高裁平成17年5月18日判決・判時1907号50頁は、

「プライバシー権の侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するものである」

と述べています。

災害における死者・行方不明者の氏名等を報道する理由について考えてみた場合、消防等による捜索・救助体制の検討のために必要な情報である、あるいは、親族や知人友人などの「安否を確認したい」という要望に資するものである、といったことが考えられ、そうすると、公表されない利益よりも公表する理由が優越するという見方もできるでしょう(もっとも、前者については、報道機関による公表までは必要なく、関係機関のみで共有を図ればよいのではないか、という議論もあると思います)。

また、「静穏に故人を悼む利益」や「敬愛追慕の情」については、死者あるいは行方不明者の名誉等を損なうような特段の事情がない限りは、その侵害が認められる可能性は低いとい思われます。

例えば、大阪地方裁判所平成元年12月27日判決・判時1341号53頁は、

遺族の「敬愛追慕の情」が侵害されたことを認めましたが、この事案では、エイズで死亡した患者の「肖像写真等を入手するため」に、写真週刊誌のカメラマンが

「来訪の目的、身分等を秘して・・・虚偽の申出をし、・・・関係者以外の立入りが認められていなかった右教会の二階に無断で上がり込み、原告らが右のとおり亡春子を静かにしのんでいる最中にフラッシュを使用して祭壇に飾られてあった同女の遺影を盗み撮りし、そのまま戸外に逃走し、そのような経緯で撮影された写真とともに、患者の経歴等を「エイズ死『神戸の女性』の足どり」との見出しで写真週刊誌に掲載したという事実を認定した上で、「本件報道は、亡春子の名誉を著しく毀損し、かつ生存者の場合であればプライバシーの権利の侵害となるべき亡春子の私生活上他人に知られたくないきわめて重大な事実ないしそれらしく受け取られる事柄を暴露したものであるが、このような報道により亡春子の両親である原告らは、亡春子に対する敬愛追慕の情を著しく侵害されたものと認められる。」としたものです。

 

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■自治体の発表について

櫻町弁護士:「報道機関が災害での死者・行方不明者の氏名等の情報を報道する前提として、そうした情報をどう入手するのかという点を考えてみると、被災者数が少なく、報道機関が自らの取材活動においてそうした情報を入手できる場合は別として、大規模災害においては通常、自治体からの発表によることが多いでしょう。

この場合、報道機関による報道の是非とは別に、「自治体が死者・行方不明者の氏名を発表することの是非」という論点もでてきます。

実際、先般の西日本豪雨の際には、自治体によって公表するかどうかの判断が分かれていたようです。

「死者・不明者 実名公表、3県で差 情報、共有か保護か」(https://mainichi.jp/articles/20180712/ddm/002/040/102000c)毎日新聞平成30年7月12日

「11日に一転して不明者の氏名を公表した岡山県は、当初は市町村から寄せられた情報を基に基本的には人数や性別を公表し、氏名に関しては市町村の判断に委ねていた。このため、自治体で対応にばらつきがあり、非公表としたケースが目立ったものの、新見市のように「早期発見につながる」として氏名を公表する市や町もあった。」

自治体がこうした情報を発表する場合の根拠ですが、例えば東京都の場合は、「東京都個人情報の保護に関する条例」において以下のような規定があり、多くの自治体では同種の条例を制定していると思われますので、「個人の生命、身体又は財産の安全を守るため、緊急かつやむを得ないと認められるとき。」が発表の根拠になるでしょう。

第10条
実施機関は、保有個人情報を取り扱う事務の目的を超えた保有個人情報の当該実施機関内における利用(以下「目的外利用」という。)をしてはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一 本人の同意があるとき。
二 法令等に定めがあるとき。
三 出版、報道等により公にされているとき。
四 個人の生命、身体又は財産の安全を守るため、緊急かつやむを得ないと認められるとき。

なお、「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」では、以下のような規定があります。
2項4号の「本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき」あるいは「保有個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき」が根拠として考えられるでしょう。

第8条 行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。
2 前項の規定にかかわらず、行政機関の長は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる。ただし、保有個人情報を利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供することによって、本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。
一 本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき。
二 行政機関が法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
三 他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、専ら統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を提供するとき、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき。

ちなみに、国が策定する「防災基本計画」(平成29年4月)(http://www.bousai.go.jp/taisaku/keikaku/pdf/kihon_basic_plan170411.pdf)においては、

「市町村は、人的被害の状況(行方不明者の数を含む。)、建築物の被害、火災、津波、土砂災害の発生状況等の情報を収集するとともに、被害規模に関する概括的情報を含め、把握できた範囲から直ちに都道府県へ報告するものとする。

通信の途絶等により都道府県に報告できない場合は、直接国〔消防庁〕へ報告するものとする。特に、行方不明者の数については、捜索・救助体制の検討等に必要な情報であるため、市町村は、住民登録の有無にかかわらず、当該市町村の区域(海上を含む。)内で行方不明となった者について、都道府県警察等関係機関の協力に基づき、正確な情報の収集に努めるものとする。」、「都道府県は、市町村等から情報を収集するとともに、自らも必要な被害規模に関する概括的な情報を把握し、特に、市町村が報告を行うことができなくなったときは、被災地への職員派遣、ヘリコプター等の機材や各種通信手段の効果的活用等により、あらゆる手段を尽くして積極的に情報収集を行い、これらの情報を国〔消防庁〕に報告するものとする。

また、必要に応じ、関係省庁及び関係地方公共団体に連絡するものとする。都道府県警察は、被害に関する情報を把握し、当該情報を国〔警察庁〕に連絡するものとする。」とされ、「人的被害の数(死者・行方不明者数をいう。)については、都道府県が一元的に集約、調整を行うものとする。その際、都道府県は、関係機関が把握している人的被害の数について積極的に収集し、一方、関係機関は都道府県に連絡するものとする。当該情報が得られた際は、都道府県は、関係機関との連携のもと、整理・突合・精査を行い、直ちに消防庁へ報告するものとする。また、都道府県は、人的被害の数について広報を行う際には、市町村等と密接に連携しながら適切に行うものとする。」

とされています」

この件についてはかなり難しい問題である様子。

しかし、視聴者から災害時毎日のように悲惨な光景をテレビに映し出し、亡くなられた方の名前を報じられることは「気分が良くない」との声が上がっていることも事実。

報道のあり方について、考え直す時期が来ているのかもしれません。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

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