きらぼし銀行の発足初日にシステム障害…発注側は損害賠償を請求できる?

■ATMコーナーはこの撮影用に制作したオリジナルのセットです。実在するものではありません。イメージ写真です。

5月1日、東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京が合併し、「きらぼし銀行」が発足。行員は気分新たに業務を開始させました。

ところが、蓋を開けてみると、旧新銀行東京の店舗でキャッシュカードが利用できない、旧八千代銀行のATMで一部の振り込みができないなどのトラブルが発生。15時頃には復旧しましたが、なんとも幸先の悪いスタートとなりました。なかには、影響を受けた利用者もいたことでしょう。

 

■原因はプログラムミス?

一連のシステム障害ですが、プログラムミスが原因だった可能性が高い模様。システムは人間が作るものですから、どうしても不具合は発生してしまうもの。開発会社としては、ある種致し方ない部分があります。

しかし、お金を支払う側にしてみれば、当然約束した期日にシステム障害が発生するのは納得がいかず、損害賠償を請求したくなるのは当然ではないでしょうか。はたして請求することはできるのでしょうか。

パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に見解をお伺いしました。

 

■損害賠償を請求できる?

毎日新聞平成30年5月1日付「きらぼし銀行 復旧 システム障害で1万6000件に影響」によれば,「合併に伴って旧八千代銀の送金に使うシステムを修正した際、不具合が生じた可能性がある」、「今回のきらぼし銀行のシステムトラブルもプログラムミスが原因とみられる」とあります。

きらぼし銀行のシステムトラブルが、報道でいわれているような「プログラムミス」に起因するものなのかどうかは、今後の調査をまたなければ分かりません。

仮にシステムが納入・検収され、実際に稼働を開始した後になって、プログラムの不具合(いわゆる「バグ」)が原因で(発注者側の)想定したとおりにシステムが稼働しないという問題が生じた(判明した)場合には、一般に、「瑕疵担保責任」の問題として扱われることになります。」(櫻町弁護士)

 

■瑕疵担保責任とは?

「ここで瑕疵担保責任にいう「瑕疵」とは、契約の目的物が(その種類のものとして)通常有すべき品質・性能を有していない状態をいうものとされています。

ただし、裁判例においては開発されたシステムに「バグ」がある場合に、ただちに「瑕疵にあたる」とされている訳ではありません。

例えば、東京地方裁判所平成9年2月18日判決(判タ964号172頁)は、

「いわゆるオーダーメイドのコンピューターソフトのプログラムで、本件システムにおいて予定されているような作業を処理するためのものであれば、人手によって創造される演算指示が膨大なものとなり、人の注意力には限界があることから、総ステップ数に対比すると確率的には極めて低い率といえるが、プログラムにバグが生じることは避けられず、その中には、通常の開発態勢におけるチェックでは補修しきれず、検収後システムを本稼働させる中で初めて発現するバグもありうるのである。

(略)顧客としては、そのような既成ソフトのない分野についてコンピューター化による事務の合理化を図る必要がある場合には、構築しようとするシステムの規模及び内容によっては、一定のバグの混入も承知してかからなければならないものといえる。」として,(システムの規模及び内容によっては)一定のバグが生じることを前提に,「コンピューターシステムの構築後検収を終え、本稼働態勢となった後に、プログラムにいわゆるバグがあることが発見された場合においても、プログラム納入者が不具合発生の指摘を受けた後、遅滞なく補修を終え、又はユーザーと協議の上相当と認める代替措置を講じたときは、右バグの存在をもってプログラムの欠陥(瑕疵)と評価することはできないものというべきである。

これに対して、バグといえども、システムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせる上、遅滞なく補修することができないものであり、又はその数が著しく多く、しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生じるような場合には、プログラムに欠陥(瑕疵)があるものといわなければならない」として,「不具合発生の指摘を受けた後、遅滞なく補修を終えること」ができたときや、「ユーザーと協議の上相当と認める代替措置を講じたとき」には,バグがあったとしても瑕疵と評価することはできない,

と判示しています。

また,東京地方裁判所平成25年5月28日判決(判タ1416号234頁)も、

「一般に,コンピュータソフトのプログラムには不具合・障害があり得るもので,完成,納入後に不具合・障害が一定程度発生した場合でも,その指摘を受けた後遅滞なく補修ができるならば,瑕疵とはいえない。しかし,その不具合・障害が軽微とは言い難いものがある上に,その数が多く,しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生ずるような場合には,システムに欠陥(瑕疵)があるといわなければならない。」

と、一定程度のプログラムの不具合・障害の発生を前提としてそれらが「遅滞なく補修ができる」ときは、瑕疵にはあたらないと判示しています。

したがって、システム構築を発注した側がシステム会社に損害賠償請求をすることができるかどうかは、バグが遅滞なく補修できるかどうか、システムの稼働に支障が生じるかどうか、といった観点から判断されるということになるでしょう」(櫻町弁護士)

※なお,2017年5月に成立し,2020年4月に施行予定の改正民法(平成29年法律第44号)においては、瑕疵担保責任という概念に代えて、「契約不適合責任」という概念が採用され、代金減額請求権が認められるなどの変更がありますので注意が必要です。

 

今回のようにシステムトラブルによって営業に支障をきたすことは多々あります。そのようなとき、損害賠償を請求ができるか否かについては、トラブルの度合いによるようです。

大規模なシステム改修が入るときは、予め「障害が発生した場合」の対応について、決めておくとよいかも知れませんね。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

*画像はイメージです(pixta)

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