現在、インフルエンザが流行しています。感染してしまうと、職場や学校を休まねばならず、場合によっては収入減を招くこともあります。
そのようなことを避けるため、手洗いうがいやマスク着用などでインフルエンザを予防している人も、多いことでしょう。
■「無頓着」な人も
予防をしっかりする人間がいる一方で、「まったく無頓着」な人も存在します。
なにもせず感染するのは自己責任ですが、職場でマスクをせずに咳を撒き散らし、インフルエンザ感染のリスクを高めてしまう行為は、第三者としては不愉快といわざるを得ません。
同僚や歳下社員、あるいは部下ならば、気軽に注意できるでしょうが、上司の場合は困りもの。なかには、注意できずにいるという人もいるのではないでしょうか?
また、注意してもその立場を利用して「ケアしない」というケースもあるようです。このような場合どのような対応を取ればいいのか。辞職させることはできないのか。
星野・長塚・木川法律事務所の木川雅博弁護士に見解を伺いました。
■辞職させることはできるのか?
「今年はインフルエンザが猛威を振るっており、職場、外出先や交通機関内で体調の悪そうな方を見かけることが多いと思います。周囲の人に感染しますのでインフルエンザにかかっている人は出勤しないでほしいですが、無理して会社に出勤する人もいるとのこと。また、インフルエンザでなくとも、マスクをせずに咳き込んでいる人は迷惑ですね。
咳き込んでいたり、インフルエンザの疑いがあったりする社員がマスクをしない場合、解雇や辞任を迫りたくもなりますが、はたしてそのようなことが可能かについて解説したいと思います」(木川弁護士)
■マスクをせずに出勤していることだけでは解雇できない
「解雇は懲戒処分の中でも重たい処分であり、重大な業務命令違反や、職務上の非違行為等があるときのみ認められるだけですので、かぜやインフルエンザの人がマスクをしないということだけでは解雇はできないでしょう。
マスクをしないことは就業規則中の安全衛生規程違反や業務命令違反とはなりましょうが、通常、1回の違反をもって解雇が認められることはありませんし、かぜやインフルエンザは2週間程度で治ってしまいますので、書面による指示・業務命令を複数回出す時間がありません。
仮に、毎日のようにマスクをするよう業務命令を出し、社員が違反し続けたとしても、その社員が故意で社内に疫病の流行を引き起こしたような究極的な事例でない限り、裁判所は、解雇は無効と判断するといえます。
もっとも、懲戒処分というのは解雇だけではありませんので、マスクをしない社員に対して戒告、けん責などの軽い懲戒処分をすることは可能です。
ただし、軽い懲戒処分であったとしても、就業規則に“安全衛生に関する規定に違反し、指示に従わない場合”などの懲戒事由の定めがあり、就業規則に基づいて実際に指示を出すという手続は必要です」(木川弁護士)
■マスクをしない役員の解任は可能
「一方、会社役員(取締役ほか)の場合はどんな理由であっても株主総会の決議さえあれば解任が可能です。ただし、マスクをしないでかぜやインフルエンザをまき散らしていることだけで解任するかというと、現実にはこのような理由のみで総会招集手続を行って解任することはないとはいえます。
以上述べたように、法律上、マスクをしないで咳や菌をまき散らしている社員に対しては懲戒処分を行うことは可能です。
しかし、従業員が自ら他の従業員に対して懲戒処分を行うことはできませんし、マスクをせずに咳をまき散らしているのが上司の場合、自分から注意・指導することはできないでしょうからその直属の上司などに相談することになりましょう。ただ、実際には社風や上司の考え方によって対応が異なる……というのが悩ましいですね。
会社は従業員の安全衛生の配慮義務を負っていますので、会社側は、インフルエンザなのに出勤している社員や、咳き込んでいるのにマスクをしない社員に対して注意指導をし、他の社員の安全に配慮するようにしていただきたいと思います」(木川弁護士)
法律上、「マスクをしない」というだけで解雇することは難しいようですが、軽微な懲戒処分を行うことは可能であるようです。
しかし、現実問題としてはなかなか難しい部分もあるでしょう。1人1人が、インフルエンザはかぜと違って空気感染もする非常に感染力の強い病気であるとの認識を持ち、「移さないよう」配慮することが重要といえます。
仮に注意をしても直さない、権力を持ちすぎて「止めてくれ」と言えない場合は、会社に対して自分たちの健康に配慮するよう求め、それでもだめな場合は弁護士に相談してみましょう。
*取材協力弁護士:木川雅博 (星野・長塚・木川法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野・長塚・木川法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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