一部の業界では機密情報や独自技術の漏れを防ぐため、退職者に対し同業他社への転職を一定年数制限する場合があります。
会社側としては当然のことなのでしょうが、労働者としては自分のノウハウを他社で活かせないため、納得がいかないかもしれません。
そもそも、所属を外れた後のことまで会社にあれこれと指示されるのは、個人の自由を侵害しているようにも思えます。このような措置は違法ではないでしょうか?
ピープルズ法律事務所の森川文人弁護士にお伺いしました。
■同業他社への転職制限は合法?
「いわゆる競業避止義務の問題です。判例としてこのようなものがあります。
“競業避止の特約は、労働者から生計の途を奪い、その生存を脅かすおそれがあると同時に、職業選択の自由(憲法22条1項)を制限するから、特約の締結に合理的な事情がないときは、公序良俗(民法90条)に反して無効である。
一方、その会社だけが持つ特殊な知識は、一種の客観的財産であり、営業上の秘密として保護されるべき利益である。
そのため、一定の範囲において労働者の競業を禁ずる特約を結ぶことは十分合理性がある。営業上の秘密としては、顧客等の人的関係、製品製造上の材料・製法等に関する技術的秘密等が考えられる。
これらを保護するため、使用者の営業の秘密を知り得る立場にある者に秘密保持義務を負わせ、また、秘密保持義務を担保するために退職後における一定期間、競業避止義務を負わせることは適法・有効である。
この事件では、Xは客観的に保護されるべき技術上の秘密を持っており、またYらは、Xの営業の秘密を漏洩するか、しうる立場にあるから、Xは特約に基づいて、Yらの競業行為を差し止める権利を有する。
競業制限の合理的範囲を確定するに当たっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、使用者の利益(企業秘密の保護)、労働者の不利益(転職・再就職の不自由)を考えて慎重に検討する必要がある。
この事件では、制限期間は2年間という比較的短期間であり、制限の対象職種はXの営業目的と競業関係にある企業であって、Xの営業が特殊な分野であることを考えると、制限の対象は比較的狭いこと、場所的には無制限であるが、これはXの営業の秘密が技術的秘密である以上はやむを得ない。
退職後の競業制限に対する代償は支給されていないが、在職中に機密保持手当が支給されていたことを考えると、この事件の競業制限は合理的な範囲にある。(東京地裁平成17年9月27日)”
一律に有効・無効ということではなく、合理的な制限か否かがケースごとに判断される問題です。専門職か否か、期間等が判断のメルクマールとなるようです」(森川弁護士)
同業他社への転職制限は合理的な制限か否かがケースごとに判断される問題とのこと。自分で判断がつかない場合は、弁護士への相談を考えてみてください。
*取材協力弁護士:森川文人(ピープルズ法律事務所。弁護士歴25年。いわゆる街弁として幅広く業務を経験。離婚、遺産相続をはじめ、不動産、 慰謝料・損害賠償請求、近隣トラブル、借地借家、賃金、インターネット問題、知的財産権などを扱う。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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