企業によって有給休暇の買い取り対応が違うのはなぜ?

*画像はイメージです:https://pixta.jp/

会社員に与えられた権利、有給休暇。原則的に社員が休みを希望すれば、業務の正常な運営を妨げる可能性がない限りは、休暇を取ることができるはずです。

しかし、日本の企業では多忙であることや、雰囲気的に取りにくい、なかには「理由」を聞かれたうえ咎められ却下されるなどして有給休暇を取ることができず、溜め込むケースが多いようです。

 

■買い取りは企業によって対応がまちまち

この場合企業によっては「買い取り」と言う形で金銭に換えてくれるところもあるようですが、企業によっては「買い取りNG」としているケースも少なくありません。

労働者としては有給休暇が取れないならお金にしてくれと考えることは当然。法律的に「NG」というのならば諦めもつきますが、NGとOKの会社が混在していることで、納得できない人もいるのではないでしょうか。

なぜこのように会社によって有給休暇の買い取りに関する扱いが違うのか。また、有給休暇の基礎知識についても、確認しておきたいところ。

企業法務に精通するパロス法律事務所の櫻町直樹弁護士にご意見を伺いました。

 

■有給休暇の「取得理由」はなんでもいい?

まず、有給休暇の「取得理由」についてお伺いしてみました。

「まず、取得の理由は何でもいいのかという点に関し、年次有給休暇を取得する理由については、法令上、特に制限はされていません。

なお、営林署の職員が年次有給休暇の取得を請求したところ、署長が請求を承認せず欠勤と処理した上で賃金を差し引いたことの当否が問題となった事案があります。

最高裁判所は、

「労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して右の時季指定をしたときは、客観的に同条三項但書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によつて年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。すなわち、これを端的にいえば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであつて、年次休暇の成立要件として労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない」

と述べています。(最高裁判所昭和48年3月2日判決・民集27巻2号191頁)。

つまり、労働者が「具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定」をすれば、使用者が「時季変更権」を行使しない限り、効果が発生(つまり、年次有給休暇として請求した日の労働義務が消滅し、出勤しなくてもよい)し、「使用者の「承認」の観念を容れる余地はない」ということは、そもそも、取得の理由を明らかにする必要もないということです」(櫻町弁護士)

 

使用者が時季変更権を行使しないかぎり、取得理由を明らかにする必要はないのですね。

 

■有給の買い取りに規定はあるの?

次に有給休暇の買い取りについてパロス法律事務所の櫻町直樹弁護士にご意見を伺いました。

「年次有給休暇について、法令上、労働者に“買取請求権”が認められている訳ではないので、使用者側が(法的に)“買取義務を負う”ということもありません。

むしろ、年次有給休暇制度は、“労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現に資する”という趣旨で設けられているものですから、原則として買取りは認められないと考えるべきでしょう。

行政解釈においても、“年次有給休暇の買上げの予約をし、 これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ、ないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である”とされています(昭和30年11月30日基収第4718号)。

ですから、使用者としては、労働者がきちんと年次有給休暇を取得できるように職場環境等を整えることが望ましいといえるでしょう。

ただし、年次有給休暇制度の趣旨を損なうものではないといえる場合には、例外的に、使用者による買取りも認められると考えられています。

例えば、労働者が退職するにあたって取得しきれない(未消化の)年次有給休暇が発生する場合に、使用者が当該未消化部分を買い取る、といったことは、年次有給休暇制度の趣旨を損なわないものとして、認められるものと思われます。

もっとも、年次有給休暇はあくまで“取得して心身を休めるため”のものですから、使用者は、“いざとなれば買い取ればよいから、十分に取得させられなくてもやむを得ない”などと安易に考えるべきではないでしょう」(櫻町弁護士)

 

労働者に買取請求権があるわけでもなく、使用者にも義務がないため、買い取りを主張することはできないようです。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)

【画像】イメージです

*Ushico / PIXTA(ピクスタ)

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