先日、ポルトガルの誰かさんから私に対し、英語でこんな手紙が届きました。
曰く、「あなたの親族とおぼしき人間が2,670万ユーロ(約33億円)の財産を遺して亡くなりました。あなたの取り分は4割です。ついては急いでこちらまで連絡してね。このことは絶対誰にも言っちゃだめだよ」と。
何とも夢のような話であり、本当にそんな財産が手に入っていれば今頃南の国でのんびりしていたのですが、当然これはただの詐欺なので今も普段通り仕事をしている、という訳であります。
さて、私の場合は「遺産を受け取れたら嬉しいな」という話でしたが、世の中にはそれとは逆に、「遺産を持っていかれたら困っちゃうよ」という話もあります。
というわけで、今回は主に中小企業の株式が相続されてしまった場合に起こりうる問題についてお話ししたいと思います。
■経営と株主について
まずは、経営と株主の関係性を整理したいと思います。
会社が発行している株式を所有している人のことを株主といいます。
株式は会社の価値を反映するので、株主は会社の所有者であるといわれたりします。株主は会社の所有者なので、株主総会で会社経営に関する大事な事柄について多数決で決める権利を持っています。
これが大企業の場合だと、株式は証券取引所で取引されていて、多くの人が株主になっています。こういった株主のほとんどは、配当を受けたり、株式を売って利ざやを稼いだりすることが目的ですから、会社の経営に参加しようとは思っていません。
しかし、中小企業の場合はそうではありません。中小企業ではそもそも株主の数自体が少なく、株主全員で、あるいは一部の株主が経営を取り仕切っていることがよくあります。
そのような場合に、一定割合の株式を保有している株主が、まったくの第三者に株式を譲渡してしまうと、突然それまで無関係だった人から経営に口を出されてしまうということも考えられるのです。
■譲渡制限株式ならば譲渡・売買ができない
先ほど述べた例のように、突然無関係の人が株主になって経営に口を出されてしまっては非常に困ります。
そのため、ほとんどの中小企業では、会社の定款で、会社の承認がなければ他人に株式を譲り渡すことができないようにしています。このような株式を譲渡制限株式といいます。
会社の株を譲渡制限株式にしていれば、株主が勝手に株を売ることはできません。
■株主が亡くなったらどうなる?
ところで、譲渡制限式株式を持っている株主が亡くなってしまった場合にはどうなるでしょうか?
人が亡くなると相続が始まり、相続人が被相続人のすべての財産を相続します。そのことは被相続人の財産が譲渡制限株式でも同じです。
そのため、その相続人がそれまで一切会社経営に関与していなかったとしても、株主の株式を相続すれば、経営に口を出せるようになってしまうのです。
これでは、せっかく譲渡制限株式にした意味がなくなってしまいます。どうすればよいのでしょうか?
その解決方法は会社法に書いてあります。会社の定款にあらかじめ定めておけば、株主が亡くなった場合、会社は、株主の相続人に対して譲渡制限株式を売り渡すように請求することができるとされているのです。
こうして、相続が発生した場合にも部外者が会社の経営に口出ししてくることを防ぐことができます。このような対策を施しておけば、万が一の事態においても安定した会社経営を行うことができます。
ただ、この制度を使う場合にも、相続を知った日から1年以内に売り渡しの請求をしないといけないとか、株式の価格に折り合いがつかなければ裁判所で価格を決めることになるとか、色々と制約や手続があります。
そのような事態に陥ってから右往左往しないために、何事もそうですが、事前の準備が大切です。
*著者:弁護士 成 眞海(丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士。取り扱い分野は、離婚から企業法務までと幅広く対応。「今治市から来た弁護士で、依頼者の皆様をタオルのような心地良さで包み込む誠実な対応をしていきたいと思います」)
【画像】イメージです
*xiangtao / PIXTA(ピクスタ)
【関連記事】
*不祥事防止のために企業行う「箝口令」…これって違法じゃないの?
*何度も契約が更新されていたのに突然の雇止め…これって有効?