先だって、格安海外旅行の代理店が倒産しました。その原因にはパックツアー客の減少もあるようです。
今やLCC全盛で世界中どこでも格安で行けて、ホテルもネットで予約できる時代です。スマホがあり、電波が通じる場所なら地図も表示され現在位置もわかります。
海外・国内を問わず、パック旅行といえば土産店に客を案内、その売上のある程度を代理店にキックバックするような習慣もあったと聞きます。
自由に旅行する観光客が増え、こうした細かい利益も減っていたのかもしれません。ちなみに、こうした客の誘導とキックバックは罪にならないのでしょうか?
星野法律事務所の星野宏明弁護士にお訊きしました。
■キックバックは違法ではない
「旅行会社が旅行ツアーの内容として飲食店や土産物店にお客を送迎し、潜在的なお客を紹介する代わりに売上の一定割合を手数料としてキックバックしてもらう取決めは、違法ではありません」
えっ、それは意外です。思い切り結託した罠に追い込むような印象ですが……。
「ひと昔前の旅行ツアーでは、添乗員付きの団体行動が多く、格安の海外旅行や国内旅行双方にこのような仕組みが盛り込まれていることが多くありました。
しかし、近年では、せっかくの休暇での旅行時間中に望みもしない土産物店を回ることで結果的に値段が安くなるメリット以上にツアー客の旅行満足度が下がることから、旅行募集案内に明記したり、土産物店を回らないツアーも増えています。
旅行業界の場合、土産物店を紹介することで安いツアーを設定できる反面、価格と内容が満足できないものであれば、結局旅行商品が売れないだけのことですから、特に禁止されていません」
確かに日本人もですが、日本に来る外国人観光客もネットで調べてスマホ片手の自由旅行が多い印象です。
■キックバック禁止の法律はないが不当に長い時間の拘束は問題
パック旅行客を増やそうと、旅行代理店は新聞にシニアを対象にした広告を盛んに打っているとか。そうした旅行では土産店に連れて行かれるかもしれません。
「現行法上では、旅行会社が特定の飲食店や土産物店をお客に利用させることでキックバックを受け取ることを禁止する規定はありません。
そもそも異業種の業者同士で潜在的な顧客を紹介し、成約した場合の仲介手数料を受け取ることが禁止されているケースの方が例外であり、限定的です。
その際たる例は、弁護士法で、弁護士の顧客を紹介したことの対価を支払ってはならないことになっています」
なんと旅行会社の話のはずが弁護士につながってしまいました。弁護士は一般業種と異なり、顧客紹介の対価について制限を受けているわけですね。
では、旅行業者が連れて行った店からいくらもらっていても問題はないのでしょうか?
「民法の『契約の自由の原則』から、どのような行為に手数料をいくら支払うかは、当事者で自由に合意できるのが原則です。
先の弁護士への有償の顧客紹介の禁止や、不動産仲介手数料の上限など、弊害が大きい場合に例外的に法律で制限があるだけです」
なるほど、このあたりは経済活動を活発化するような力学が優先されているようです。ただし、必要以上に長い時間お店に拘束されたり、買うまで外に出られないなどの場合は問題になるそうです。
「客さんに対する無駄な拘束時間があまりに多く、ツアー内容で案内した旅行内容とあまりにもかけ離れた場合は、債務不履行の責任が生じる可能性がなくはありません」
万一、そんな目にあった場合は、ツアー会社に抗議を。
■土産物を買わせる目的の場所に連れて行かれても買わなければいい!
ちなみに、今は落ち着いた中国人観光客の日本での爆買いですが、その真っ最中、よく繁華街の外れにあるデパートでもなんでもない雑居ビルに中国人観光客がバスから降りてゾロゾロ入っていく様子を見かけました。
のちにTVの報道で知ったのですが、どうやらそこで日本製品やブランド物を買い物させていたのです。しかも免税店よりお高めの値段で……。
「そもそも、その値段で買うかどうかは自由ですから、“買わされている”と法的には評価されません。
“他店と同じ値段”“他店より安い”などと謳っていたとしても、法的には少し過剰な宣伝文句にすぎず、容易に比較できるので、詐欺になるケールはほとんど想定できません。
他店より高い水準の店舗に案内しても、そこで買うかどうかという選択の自由がある以上、そもそも日本で違法になることは想定できず、警察が指導することもありえません」
たしかに、いくら以上買えという強制はありませんでした。そこは、冷静に消費者目線で判断すればいいわけですね。
幸い、今や海外旅行はどの国でも物を買うより体験や絶景、文化に接する方向にシフトしています。みなさんもお金で買えないプライスレスなことを求めて旅行にお出かけください。
*取材協力弁護士:星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。Twitterアカウントはこちら)
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