「貸すなら返ってこないと思って貸せ」とは、人にお金を貸す際によく言われる言葉です。実際、友人にお金を貸したけど返してもらえないという話は珍しいものではありません。
悲しいのはお金が戻らないことだけではないでしょう。助けてあげたいと大事なお金を貸すほどの友情や好意をもっていた相手からの裏切りは、金額以上に大きなショックとなります。
人間関係を失うのだったら、せめてお金だけは取り返したい! しかし「返せ」と言って返してくれるのなら苦労はない……。こんな時、何か打つ手はあるのでしょうか? 和田金法律事務所の渡邊寛弁護士にうかがいました。
■個人間の借金は踏み倒した者勝ち!?
以下のようなケースでは、お金を返してもらうために、一体どのような方法があるでしょう?
知人に頼まれ借用書なしで合計100万円以上貸したが、約束の期日を過ぎても返金がない。電話やメールで催促すると「返す」とは言うものの、一向に支払われないまま2年が経過した。電話で怒鳴りつけたところ、警察に脅迫だと通報され、接触を禁じられている。
「ストーカー等ではないので、警察の接触禁止の指示は任意の注意と思われます。もっとも、直接の働き掛けで支払いに応じるとも思えませんし、再度のトラブルとなりかねませんので、法的手続きの利用を考えた方がよさそうです。
支払督促、訴訟、調停など法的手続きを利用しても、公の機関が当事者の代わりに回収してくれるわけではありませんので、貸金の回収は簡単ではありません。
貸金債権の存在は請求者が立証しなければなりませんし、勝訴しても、差し押さえる財産がないと強制執行できません。財産や収入がないとどんな手段でも回収は不可能なため、財産がない人への請求は現実的に難しいことが多いです」(渡邊弁護士)
借用書がなくてもメールや電話などで貸したことが証明できる記録があれば、打つ手はあるようです。しかし、法的手続きや弁護士費用などのコストがかかる上に、相手にお金がなければ取り戻すことはできません。
■精神的苦痛を受けても慰謝料請求はできない
お金を失い関係性も失うという二重のショックは計り知れないものです。契約の不履行や通報などの精神的苦痛を理由に慰謝料を請求することはできないでしょうか?
「できません。相手が返金しないことは借りたお金を返すという金銭債務の不履行になります。
金銭債務の不履行があったとき、債権者は利息の合意がなくても法定利率(民法で年5%)の遅延損害金を請求できますが、逆にこれを超える損害が生じても、精神的損害であれ取立てのための弁護士費用であれ賠償を請求することはできません。
警察への通報については、貸金返済のトラブルが事情としてあったとしても、通報自体に不法性は認め難いです」(渡邊弁護士)
不貞やパワハラなど様々なトラブルで精神的苦痛を理由に慰謝料を請求することが認められていますが、お金の貸し借りの際には慰謝料を請求することはできないのです。
結局どんな法的手段をとっても、返さないで逃げた者勝ち、というムードが濃厚です……。
そう考えると「貸すなら返ってこないと思って貸せ」は実に現実的な言葉ですね。借金を申し込まれたら、金額や関係性、自身の精神状態などをよく考えてから判断するべきです。
*取材協力弁護士: 渡邊寛 (和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)
*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。
【画像】イメージです
*saki / PIXTA(ピクスタ)
【関連記事】
*借金取り立てはほとんどが違法だった!弁護士が詳しく解説します
*返済を迫られているが借用書はない…「親子間の借金」は返さなくてもOK?