皆さんの会社では、有給休暇は取りやすい環境にありますか?
他の人に迷惑をかけたくないから、といった理由で、有給を取得できる環境にありながらも自ら取得しない人も一定数いるようです。
ただし、中には「有給を取ると査定に悪影響があるから」といった一見違法に思える理由から有給を取得しない人もいるようで、ネットでは話題になっていました。
そこで、今回は「有給を取得すると査定に悪影響がある」「有給を取得するとボーナスが減らされる」というケースが法的に問題がないかどうか解説していきたいと思います。
■有給を取得すると、査定に悪影響が…法的に問題ないのか?
結論から言うと、違法と判断される可能性が高いです。
有給は正式には年次有給休暇と言い、休んでも給料がもらえる休暇のことをいいます。
労働基準法は、雇われた日から計算して6ヶ月続けて働いていて、本来出勤しなければならない日(「全労働日」といいます)の8割以上出勤した労働者に有給を取得する権利(「年休権」といいます)を認めています。
労働基準法が労働者に有給を取得する権利を認めているのは、労働者の健康やプライベートを充実させるためです。
したがって、使用者が労働者の年休権行使を不当に制限することは許されないし、年休取得を理由として賃金を減額する等労働者を不利益に取り扱うことも原則として違法・無効となります。
査定は、昇給(毎年・毎月の賃金)が関わってくるわけですから、労働者にとって最大の関心事です。
有給を取得すると査定に悪影響ということになれば、普通の労働者は有給を取得することに躊躇してしまいます。これでは、労働基準法が年休権を保障した意味がありません。
したがって、有給を取得すると査定に悪影響がある場合、違法と判断される可能性は高いです。
■有給を取得すると、賞与から1万円引くことは法的に問題ないのか?
ケースバイケースで、違法・無効になるケースもあれば、適法・有効というケースもあると考えます。
労働基準法が年休権を保障している趣旨からすれば、有給の取得を理由に賞与を減額する等の不平等な措置を採ることは好ましくありません。
しかし、事業のスムーズな運営に配慮・貢献した者に一定のボーナスを付与することは認められてもいいわけです。
そこで、有給取得を理由とした不利益取扱いの効力について、措置(不利益取扱い)の「趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効とすることはできない」とした最高裁の判例もあります(沼津交通事件最高裁平成5年6月25日判決)。
有給取得を理由に賞与から1万円引く場合についてですが、まず、どんな日かを問わず事業に支障がない日の有給取得でも差し引くというのであれば、そういった減額措置の趣旨・目的に何ら合理性はありませんから違法・無効と考えられます。
これに対し、繁忙期あるいは人手が不足しがちな時期を特定し、その期間中の有給取得を理由とした減額措置ということであれば有効と扱う余地があります。
次に、1万円引くといっても、賞与を100万円以上もらっている人と10万円位しかもらっていない人では、労働者が失う経済的利益の程度は異なってきますので、多くもらっている場合は有効と扱う方向に、少ない額しかもらっていない人の場合には無効と扱う方向に働くかと思います。
また、賞与といっても、あらかじめ支給額・支給条件が決まっているのであれば労働の対価として賃金と同じようなものということができますので、支給条件を無にするような減額であれば違法・無効と扱う方向に働くかと思います。
これに対し、特に支給額・支給条件も決まっておらず勤務先が儲かったときに利益を分配するといった程度の意味合いのものであれば有効と扱う方向に働くかと思います。
そして、賞与から1万円引くという措置によって、誰もが引かれたくないという理由で有給を取得しないような状況にあるのであれば違法・無効と扱う方向に、そうでなく有給が比較的消化されているような状況にあるのであれば有効と扱う方向に働くかと思います。
■有給取得率を上げるためにどんな制度や法整備が必要か
有給の取得には労働者が勤務先に「請求」することが必要です。しかし、労働者の性格・立場や勤務先の環境によっては請求しづらい場合もあるかと思います。
そうなると、現実的ではないかもしれませんが、労働者に有給を消化させる義務を法律で勤務先に課したり、一定期間有給を請求しなかった場合にその後の勤務日を法律によって自動的に有給にして労働者の出勤も禁止するくらいのことをしないと難しいのではと思います。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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