19日から春の選抜高校野球が開幕。WBCが盛り上がっていただけに若干陰の薄い今大会ですが、清宮幸太郎選手など能力の高い選手が目白押しということもあり、多くの人が観戦しているようです。
試合を見ていると目に入ってくるのが、坊主頭の選手たち。一部の高校を除くと、ほぼすべての高校が坊主または“スポーツ刈り”です。
これは髪を短くすることが入部条件となっていることが多いためで、大抵の場合、納得いかなくとも野球を続けたいのなら、同意するしかないようです。
しかし、本来ならば野球に髪型は関係ないわけですから、長髪でもかまわないはず。仮に「坊主頭に同意したけどやっぱりやめた」と髪を伸ばした場合、強制的に退部させられるもの思われます。
このようなことが起こった場合、提訴することはできるのでしょうか?
水田法律事務所の河野晃弁護士に見解を伺いました。
Q.野球部の指導者から丸刈りを強制され、拒否して退部させられた場合、提訴することは可能?
A.できると思われます。
「権利、利益が対立する場合、裁判所が考慮するのは、“目的と制度の間に合理的な関連性があるかどうか”というところだと思います。
この場合、“制度(=丸刈り)”がどういう“目的”で行われているのかというところが重要でしょう。野球をするのに丸刈りにする合理的な根拠は無いように思います。
野球界の最高峰であるプロ野球は丸刈りを強制していません。理由があるならむしろ教えて欲しいですね。
まぁ、あり得るとしたら、分かりやすい恭順の意を示せということなんでしょうか。高校野球では大人の野球以上に遥かに監督が絶対的です。監督に逆らうような選手は試合に使ってもらえません。
それを事前に植え付けるための手段なのかなとは思います。
あとは、チームとしての一体感でしょうか。『俺は丸刈りにしているのにあいつはしていない』みたいな感じにならないために統一しているのかもしれませんね。
ただ、どれも、法的な合理的関連性が認められる可能性は低いように思います。
法律で解決をするということになれば、丸刈りが強制された経緯(最初から分かっていて入部したのか、途中から強制になったのか等)も重要だとは思いますが、丸刈り拒否で退部となったという経緯が明確に立証できるのであれば、勝てる可能性はあると思います。
ただ、そもそもですが、そんな裁判などで学校と争っているうちにかけがえのない時間はどんどん失われていくのも現実ですが……。
ちなみに、私は小学校から高校まで野球部でしたが、丸刈りにしたのは高校3年生の最後の大会前だけでしたね。そもそも、中学、高校は丸刈りを強制されてません。
小学校の時は“スポーツ刈り”が推奨されていましたが、少しそんな髪型にして、後々徐々に伸ばしていったような気がします。
特に辞めさせられたり試合に出させてもらえなかったりという思い出はありません。結局、実力さえあれば、だいたいの監督は使ってくれるんですよね。
そのチームで、その監督のもとで、野球がしたいということで入部したのであれば、後から丸刈り云々で文句言うような人っていませんよね。最初から分かって入ったのであればなおさらです。
髪の毛なんてそのうち生えてきますし、本気で野球に打ち込みたかったら気にならないのではないでしょうか。少なくとも生徒は。騒ぐ親御さんはいらっしゃるかもしれませんが」(河野弁護士)
現実的に「坊主に同意したうえで途中から長髪にする」場合は退部せざるを得ないと思われます。しかし、不服として提訴した場合、勝てる可能性もあるようです。
実際のところそのようなことをする球児はまずいないと思われますが、「坊主頭の強制」については、不満に思っている野球部員も少なからず存在していると聞きます。
また、高い能力を持ちながら坊主になることが嫌で野球をやらないという高校生もいるようです。
球児の「坊主」については「高校生らしい」「坊主に同意できない人間はチームスポーツができない」という意見と、「強制はおかしい」「自主性に任せるべき」という声があり、つねに意見が対立しています。
読者の皆さんは、どのように考えているでしょうか?
*取材協力弁護士:河野晃 (水田法律事務所。兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活7年目を迎える。敷居が低く気軽に相談できる弁護士を目指している。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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*KOHEI 41 / PIXTA(ピクスタ)
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