2月も半分が過ぎ、3月の足音が聞こえてきました。3月といえば卒業や異動のシーズンで、引っ越しが多くなる時期。不動産会社や引越センターにとってはかきいれ時といえます。
そんななか、どさくさに紛れて大家が賃料を値上げしてくることがあります。神奈川県内に在住のSさんは、家賃8万円のマンションを借りて生活していましたが、今月に入り突然「10万円」への賃料アップを要求されたそう。
8万円と10万円差は決して小さくないため、なんとか拒否したいもの。そもそもそんなことが法的に許されるのか? やはり払うか、退去するかの二択になるのでしょうか?
諏訪坂法律事務所の多田幸生弁護士にご意見を伺いました。
Q.大家さんが賃上げを要求してきた……飲めないなら退去するしかない?
A.必ずしも値上げに応じる必要はありませんが、慎重に対応してください
「まず、賃貸借契約書に、家賃の変更方法についての取り決めがないことを確認しましょう。以下は、取り決めがなかった場合について、話を進めます(取り決めがある場合は、それに従ってください)。
家賃はあなたと大家さんの合意により決めるべきものですから、あなたは値上げに合意せず、断ることもできます。ただし、“慎重な対応が必要である”ことにご注意ください。
例えば、大家さんの一方的な値上げが不満だからといって、賃料の支払をストップしては絶対にいけません。大家さんから、家賃の不払いを理由に賃貸借契約を解除されてしまい、あなたは退去しなければならなくなってしまいます。
大家さんの一方的な賃上げが不満な場合は、従前からの金額の支払を続けましょう。先ほどの例なら、月額8万円です。毎月8万円を支払っておけば、家賃の不払いを理由に賃貸借契約を解除されることはありません(仮に大家さんが「解除した」と言ってきても、法的には無意味です)。
次に、大家さんには、あなたの合意なしに、賃上げする手段がある、ということも覚えておきましょう。ここでは細かく述べませんが、たとえば近隣の家賃相場が値上がりしたり、物価の上昇があったりして、従前からの家賃が近隣の相場と比べて安くなっているような場合、大家さんは、裁判手続(賃料増額請求訴訟等)により、近隣の相場並みまで賃上げをすることができる可能性があります。
怖いのは、もし、裁判手続により賃上げが認められてしまった場合、あなたは、大家さんに対し、思いもよらぬ多額の支払い義務を負ってしまう可能性があるという点です。
たとえば、裁判手続に2年かかり、2年後に、大家さんの主張どおり、月額10万円への賃上げが認められたとしましょう。賃上げが過去にさかのぼって認められた場合、あなたは毎月2万円×2年間=48万円分の賃料支払いの不足があることになります。しかも、不足額48万円には支払期からの遅延損害金が付きます。その割合は、なんと年10%です(借地借家法第32条2項)。
あなたがこれをただちに支払えるならよいのですが、もし支払えない場合、賃貸借契約を解除され、結局、退去しなければならなくなってしまう可能性があります。
判断するうえで大事なのは、“今の家賃が、相場から見て妥当な金額かどうか”です。
もし、相場よりも安くなっているという場合には、安易に値上げを拒否していると、あとで痛い目にあう可能性があります。ご自分で判断されず、専門家に相談するなどして、慎重に対応されることをお勧めします」(多田弁護士)
仮に賃料値上げをアナウンスされた場合は、自分で判断するのではなく、弁護士や不動産の知識を持つ第三者、国民生活センターなどに問い合わせてみましょう。
*取材協力弁護士:多田幸生(諏訪坂法律事務所所属。会社法務・企業法務の豊富な経験があり、大手証券会社の法務職としての経歴を活かし、「守りの法務」だけでなく「攻めの法務」を提供。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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*miya227 / PIXTA(ピクスタ)
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