結婚情報誌『ゼクシィ』でピンク色の婚姻届が付録になったり、和歌山市と南海電鉄のコラボデザイン婚姻届「めでたいとどけ」の提供が開始されたりと、記念になる多彩な婚姻届が増えています。楽しい結婚生活をイメージしながら署名捺印できそうですね。
さて、2人で婚姻届に署名し判を押して始めた結婚生活を終わらせるには、やはり2人で離婚届に署名し押印しなければなりません。ただし、役所に提出する段階では夫婦揃っている必要はありません。夫婦のうちどちらか一方、あるいは代理人の提出も可能です。記載に不備がなければ受理され、離婚が成立します。
つまり、実際に本人が署名押印したかどうかは、役所では確認されないのです。ということはもしかして、離婚届って勝手に書いて出すことができるのでは? そんな疑問を、三宅坂法律事務所の伊東亜矢子弁護士に見解を聞いてみました。
*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)
■勝手に出された離婚届を無効にする方法
同意なく勝手に署名押印して提出された離婚届で離婚が成立してしまったら、無効にすることはできますか? どのような手続きが必要でしょうか?
「離婚届は、必要事項が記入されていれば受理はされてしまいます。しかし、離婚の意思もないのに勝手に名前を書かれて出されたものであれば、法律上は無効であり、家庭裁判所に調停を申し立てて離婚は無効であることの合意を求めることができます。
合意ができ、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行ったうえで合意が正当であると認めれば、合意に従った審判がなされます。合意ができない場合は、訴訟を提起することとなります。」(伊東弁護士)
一度は離婚が成立してしまいますが、取り消しが可能なのですね。
■離婚届の記入は本人が行ったが、本人に提出の意志がなかった場合は?
「届け出時点において離婚の意思がないのに提出されてしまったという場合も無効となります。もっとも、自ら署名した場合、離婚の意思がなかったと立証することは困難な可能性があります。
また、一旦届け出が受理されてしまえば裁判所の手続きを経てしか訂正ができないことになりますので、あらかじめ役所に離婚届の不受理申出をしておくことが考えられます。」(伊東弁護士)
このような事態を防ぐため、「離婚届の不受理申出」という手続きがあります。あらかじめこれを提出しておくと、離婚届が提出されても受理されません。有効期限は無期限です。もし勝手な離婚届の提出が想定される場合は、事前にこの手続きを済ませておくのが賢明かもしれません。
■同意なき届出は犯罪行為
このように勝手に離婚届を書いて提出するという行為は、法的には許されるのでしょうか?
「離婚届の偽造は私文書偽造罪(刑法159条1項)、役所に提出することは偽造私文書行使罪(刑法161条1項)、戸籍に虚偽の記載をさせることは公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項)に該当し、許されません。」(伊東弁護士)
私文書偽造罪・・・3カ月以上5年以下の懲役
偽造私文書行使罪・・・3カ月以上5年以下の懲役
公正証書原本不実記載等罪・・・5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
それぞれ法定刑が上記のように定めらているれっきとした犯罪です。
■ところで、婚姻届の場合はどうなる?
「原則的にご説明した離婚届の場合と同様と考えられます。役所に対する不受理申出は、認知、縁組、離縁、婚姻又は離婚の届出において行うことができるものとされています(戸籍法27条の2・3項)。」(伊東弁護士)
婚姻届も離婚届も、相手の同意のない勝手な提出は許されないことです。トラブルなく次のステップに進むためにも、双方が納得した上で共同作業として署名し提出したいものです。
*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)
*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。
【画像】
*タカス / PIXTA(ピクスタ)
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