飛行機の離陸中に幼児を助けようとしたCAが転倒して骨折…責任は誰が取る?

*画像はイメージです:https://pixta.jp/

先日、日本航空(JAL)で離陸中に女性の客室乗務員が転倒し骨盤を骨折してしまうという事故が報じられました。JALが航空中に事故を起こすのは今年度ではこのケースが初めてということです。

原因は離陸中に乗客である幼児が座席の上を「ハイハイ」しているのをこの客室乗務員が発見し注意したものの、声が届かなかったため自分の座席から立ち上がって直接注意しに向かおうと試みた際に、機体が揺れて転倒してしまったことにあるようです。客室乗務員は結果として全治4週間のケガを負うことになってしまいました。

このような場合、ケガをした客室乗務員は「自己責任」となるのでしょうか。それとも、幼児の親や雇用主であるJALに損害賠償を請求することが可能なのでしょうか。

今回の記事では、これらの疑問点について労働トラブルに詳しいピープルズ法律事務所の森川文人弁護士にお話を伺いました。

*取材協力弁護士:森川文人(ピープルズ法律事務所。弁護士歴25年。いわゆる街弁として幅広く業務を経験。離婚、遺産相続をはじめ、不動産、 慰謝料・損害賠償請求、近隣トラブル、借地借家、賃金、インターネット問題、知的財産権などを扱う。)

 

 

■誰が客室乗務員の賠償責任を取る?

まず、この事案において客室乗務員の賠償責任を取るべきなのは誰になるのでしょうか。

「この客室乗務員は、業務上やるべき仕事をしようとしたところ怪我をしたのですから、労災保険が適用になります。治療費が全額支給されるのはもちろんのこと、ケガの程度が骨折という重い症状のため、しばらくの期間仕事を休む必要もあるでしょうが、この期間の休業補償についても労災保険の対象となるものと思います。」(森川弁護士)

労災保険とは社会保険の一種で、労働者が業務中や通勤中に負傷した場合に企業に代わって治療費や休業中の給与を補償する制度になります。今回の事件では仕事中のケガになるため本来の賠償責任は企業にあるのですが、原則として全ての企業は労災保険に加入しているため、治療費や休業中の給与補償は労災保険が適用されることになるのですね。

 

■JALに対して損害賠償を求めることは可能なの?

労災保険の適用になりそうだということは分かったのですが、この客室乗務員は雇用主であるJALに対して損害賠償を求めることはできないのでしょうか。

「今回の事故に関して、本質的には事業者に責任があるものと言えますが、本件について事業者であるJALが『安全配慮義務違反』といえるかどうかはこの事故の具体的な詳細を確認してみない事には何とも言えません。ただ、もしJAL側に安全配慮義務違反といえるような事実が存在することが認められるのであれば、この客室乗務員はJALに対して民事上・刑事上の責任を追及できることになると思います。」(森川弁護士)

「安全配慮義務」とは文字通り業務中の従業員の安全について配慮する義務のことを言い、企業は従業員を雇い入れている以上、当然にこの安全配慮義務を負っていることとされています。

そのため、今回の事件についてJAL側の安全配慮義務に落ち度(揺れの程度や機内の安定性、非常時の対応マニュアルの不備など)がもし認められるのであれば、客室乗務員は労災保険から給付を受けつつ、さらに雇用主であるJALに対しても責任追及をすることが可能になるということなのですね。

 

 

*取材協力弁護士:森川文人(ピープルズ法律事務所。弁護士歴25年。いわゆる街弁として幅広く業務を経験。離婚、遺産相続をはじめ、不動産、 慰謝料・損害賠償請求、近隣トラブル、借地借家、賃金、インターネット問題、知的財産権などを扱う。)

*取材・文:ライター 松永大輝(個人事務所Ad Libitum代表。早稲田大学教育学部卒。在学中に社労士試験に合格し、大手社労士法人に新卒入社。上場企業からベンチャー企業まで約10社ほどの顧問先を担当。その後、IT系のベンチャー企業にて、採用・労務など人事業務全般を担当。並行して、大手通信教育学校の社労士講座講師として講義サポートやテキスト執筆・校正などにも従事。現在は保有資格(社会保険労務士、AFP、産業カウンセラー)を活かしフリーランスの人事として複数の企業様のサポートをする傍ら、講師、Webライターなど幅広く活動中。

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*BlueFox / PIXTA(ピクスタ)

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