生徒に対して部活指導メールを「年に600通」送付…行き過ぎた指導には当たらない?

神戸市立の高校で50代男性教諭が2014年夏から2015年夏にかけて、自身が顧問を務めているソフトテニス部の主将に対して約1年で500~600通のメールを送っていたことが明らかになりました。練習時に指導しきれなかった内容などについてメールを送っていたそうですが、「生徒の重荷になる」という理由で、メールの伝達をやめさせたそうです。

神戸市の教育委員会によると、男性教諭は他の部員にもメールを送っていたが、主将へのメールは多い時で1日に約20件と突出しており、土日にも送っていたとのことです。

メールの内容やメールでの連絡がいけないことではないですが、今回のような指導として行き過ぎとも言えそうな行為に違法性がないか解説していきたいと思います。

 

*画像はイメージです:https://pixta.jp/

 

■1.行き過ぎた指導の違法性について

行き過ぎた指導について裁判例としてデータベース上で検索できるものは数える程しかありませんが、生徒が自殺したため損害賠償請求を認めたものもあれば、生徒が自殺していても「やや厳しかったことは否定できないが、指導による教育的効果を期待し得る合理的な範囲内のものといえるから、正当な指導として許容される」としたケースもあります。

正当な指導として許容されるとしたケースは、担任教諭が小学5年生の生徒に対し、図形の作成をできるまで繰り返し訂正・再提出させたり、学校行事に際して演奏する楽器の居残り練習をさせたり、忘れ物したことに対し厳しく叱責したというものでした。

行き過ぎた指導の違法性について、判断基準が確立されているわけではありませんが、結局は、指導の目的、指導の内容・方法・程度、生徒の年齢・性格・心身の発達の程度、指導による生徒への影響等の個別事情を総合的に検討し、正当な指導といえるかが判断されるのではと考えます。

 

今回のケースにおいて、男性教諭は、顧問を務めるソフトテニス部の女子主将に対し、1日約20件のメールを送ったり、プライベートな時間であるべき夜や土日にも送ったりしており、確かに指導として行き過ぎの感はあります。

しかし、メールの内容は練習日の調整や練習内容などに関することや、練習の報告を求めるもので、この点は指導の域を逸脱しているわけではありません。

また、今回のケースでは、学校の方で行き過ぎた指導を把握して教諭に対しメール伝達を止めさせたという事情もあります。

したがって、この男性教諭が学校の指導に従わず従前の行き過ぎた指導を今後も継続して生徒に悪影響を与えれば違法となることもあると思いますが、男性教諭が学校の指導によって自身の行き過ぎた指導を自覚して改めるのであれば違法とまではいえないように考えます。

 

■2.私立の学校か公立の学校かによって違いはあるのか

私立の学校でも公立の学校でも、普通教育であれば「教育内容が正確かつ中立・公平で、地域、学校のいかんにかかわらず全国的に一定の水準であることが要請される」(第一次教科書裁判上告審)といった制約がありますが、教育目的を達成させるためにある程度の裁量が教員にも認められます。

教育の目的が「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」であるところ、そうした目的を達成するためには教員の人格に基づいた指導が不可欠であり、そのためには教員の指導にある程度の裁量を認める必要があるからです。

私立の場合、建学の精神や校風に特色がある場合もあり、それによって教員が指導できる範囲(裁量)が公立の場合よりも多少狭まる場合もあれば、多少広がる場合もあるのではと思います。

例えば、ルールを守らせる厳しい校風に特色がある私立であれば教員もそれに従って生徒に厳しい指導をしていかなければならず、その意味で指導できる範囲が狭まるのではと考えます。

逆に、自分の意見を言える伸び伸びした自立できる生徒を育てるための校風に特色がある私立であれば、教員は、生徒に厳しくしすぎてはいけないという意味では裁量が制約されるかもしれませんが、子供の人格を発現させる方向での教育指導であれば裁量が広くなるのではと思うわけです。

 

生徒のためを思っての厳しい指導も必要な場合があるかとは思いますが、生徒自身が自身の心身を守る力が十分とはいえないのが通常ですから、教育に携わる方には、本当にこれでいいのか、やり過ぎではないか、一方的な指導ではなく時には同僚や生徒自身に確認しながら教育に取り組んでいただきたいと思います。

 

*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)

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