■「賃金の下落=支給額引下げルール」と影響予測
中でも議論の焦点になると思われるのは、(3)の②です。新ルールでは、賃金の下落幅が物価の下落幅よりも大きければ、賃金の方に合わせて年金支給額を減らすというものです。
現行では、賃金が物価よりも大きく下落した場合、下落幅が小さい物価のほうに合わせて支給額を決めますが、賃金が下がっても物価が上がれば年金は減りません。しかし新ルールでは、賃金の下落幅に合わせるため、今より減る場合が出てくる可能性があるというのです。
先の予算委員会で、民進党議員が「改定ルール通りに当てはめると、支給される実額が数万円レベルで減るケースが出てくるのではないか」と問いただしたのに対し、政府側は答弁でこれを否定しませんでした。
賃金の情勢は年金制度の「財源(収入)」の要素であり、それに対して物価情勢は年金生活者の「支出」の要素といえます。今回の改定ルールは、財源の要素を優先させたものといえるでしょう。政府は「支え手である現役世代の負担能力に応じた給付にするため見直しを行う」という改定意図に、世論の理解を求めています。
■この法案のメリットとデメリットは?
法案は、上記の改定ルールと合わせて、他の改正内容がワンセットで提出されています。ここで法案全体から見えてくるメリット・デメリットを整理してみましょう。
メリットの「年金制度の持続性が高まる」と、デメリットの「年金支給額が減額になる場合が出てくる」は、パラレルの関係です。
年金制度の持続性は、たしかに最重要テーマです。ただ、同時にこのテーマは、様々な角度からの議論を封じかねない要素を持っているのではないでしょうか。
今回の改定が、はたして「正しい狙い」に対して「最も高い効果」をもたらす改定といえるのか。検討し尽くした末の最善の策といえるのか。我々に見えるよう、国会では議論を戦わせてほしいものです。
*著者:鉄箸法雄(法情報専門の編集者・ライター。出版社で、長年法律書籍・デジタルコンテンツ等の編集に携わったのちに独立。現在も「全ての人に良質な法情報を」をモットーに活動中)
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