「残業過労自殺」を後押ししたかもしれない、現状の労基罰則の問題点とは?

■過労死を防ぐために、会社や行政は何をすべき?

今回のような事件を防ぐために会社サイドで留意すべきことや、行政が打ち出すべき施策は何かあるのでしょうか。

「会社が留意すべきこととして、まず労働基準法に違反した場合には、刑罰の定めがあることを知っておくべきです。従業員も退職するまでは職場に対して文句を言うことができずにいることが多いですが、そのような従業員でも退職した際に未払賃金の請求を行うこととあわせて、労働基準監督署に相談に行くということはよくあります。その場合に、単に未払い賃金を払えば良いというだけでなく、最悪、刑事罰を受けることになることをきちんと把握しておくべきです」(大窪弁護士)

労働基準法違反=刑事罰を受ける可能性がある、ということを管理職がもっと重く受け止めて欲しいということですね。では行政はどうなのでしょう。

「行政が打ち出すべき施策としては、労働基準監督署の敷居を低くするということがあるでしょう。従業員が相談に行っても、証拠が足りないといわれて何もしてくれなかった、というケースが多いのです。ただでさえ立場の弱い従業員が労基署に行くということ自体ハードルが高いのですから、窓口対応は改善していくべきでしょう 」(大窪弁護士)

公務員の定数削減で労働基準監督署も職員が少ない中で何とかやりくりしている状態だとは思いますが、労働者の保護を念頭に置いて、もう少し相談しやすい環境作りや具体的なアドバイスを提供することも、今後の課題のひとつのようです。

 

■自分が過労死しないためには?

最後に、働く個人、特に社会に出て間もない若者が過労死・過労自殺に追い込まれないために、法的なアドバイスがあればお伺いできますでしょうか。

「日本では残念ながら労働法を守らずに長時間労働させる会社が多いですが、そのような会社に不幸にして入社てしまった場合でも、それが当たり前だと思わないことです。また、労基署以外にも労働組合や弁護士等相談窓口はあるので、おかしいと思ったら精神的・肉体的に追い込まれる前に相談するのがいいと思います」(大窪弁護士)

自分が壊れてしまう前に、「おかしいのはこの会社なんじゃないか」と早めに気づくことが大切でしょう。そのためには普段から他社や他業界の友人の話を聞いたり、労働法について基本的な知識を勉強したりすることが重要になるのかもしれませんね。

 

*取材協力弁護士:大窪和久(桜丘法律事務所所属。2003年に弁護士登録を行い、桜丘法律事務所で研鑽をした後、11年間、いわゆる弁護士過疎地域とよばれる場所で仕事を継続。北海道紋別市で3年間、鹿児島県奄美市で3年間公設事務所の所長をつとめたあと、再度北海道に戻り名寄市にて弁護士法人の支店長として5年間在任。地方では特に離婚、婚約破棄、不倫等の案件を多く取り扱ってきた。これまでの経験を活かし、スムーズで有利な解決を目指す。)

*取材・文:ライター 松永大輝(個人事務所Ad Libitum代表。早稲田大学教育学部卒。在学中に社労士試験に合格し、大手社労士法人に新卒入社。上場企業からベンチャー企業まで約10社ほどの顧問先を担当。その後、IT系のベンチャー企業にて、採用・労務など人事業務全般を担当。並行して、大手通信教育学校の社労士講座講師として講義サポートやテキスト執筆・校正などにも従事。現在は保有資格(社会保険労務士、AFP、産業カウンセラー)を活かしフリーランスの人事として複数の企業様のサポートをする傍ら、講師、Webライターなど幅広く活動中。

【画像】イメージです

*Shells / PIXTA(ピクスタ)

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