超高齢化社会に向け進行中の「相続法」の改正。遺産と遺言書はどう変わる?

■「遺言制度」に関する見直し:遺言書の自書必須な範囲が緩和

(1)自筆証書遺言の方式緩和

財産の特定に関する事項については、自書でなくてもよいものとする見直しが検討されています。

現行法では、「全文、日付及び氏名」を全て自書しなければならないとされています。しかしながら、複数の財産、特に不動産などを複数お持ちの場合には、その特定のために登記簿に書かれている情報を全て自書で引き移さなければならなくなり、高齢者等にとってはかなりの困難性を強いることになっています。

それゆえに自筆遺言があまり利用されない、さらには、公正証書遺言はなおさら利用されていないという事態に陥っています。遺言がないことによる鮮烈な相続争いは有名で、これを防ぐためには、もっと気軽に自筆証書遺言が利用されなければならないという狙いがあります。

(2)自筆証書遺言の保管制度の創設(遺言保管機関を設ける)

ところが実際には、自筆証書遺言の場合には、紛失や相続人による隠匿、変造の恐れがあり、それを巡って鮮烈な裁判に発展し、いつまで経っても遺産分割ができないという事態が発生しているのも事実です。このような紛争を防ごうという狙いから創設される制度です。

■「遺留分制度」に関する見直し:円滑な事業継承が可能に

遺留分権利者の権利行使によって、遺贈又は贈与の目的物について当然に共有状態(物権的効果)が生ずることとされている現行の規律を改め、遺留分権利者の権利行使によって、原則として金銭債権が発生することとする見直しが検討されています。

簡単に説明すると、これは円滑な事業承継を可能にするための見直しです。

例えば、被相続人が特定の相続人に家業を継がせるため、株式や店舗等の事業用財産をその者に遺贈するなどしても、減殺請求により株式や事業用の財産が他の相続人との共有となります。

結果、これらの財産の処分が困難になるなど、事業承継後の経営の支障になる場合が多く、このことを悪用してより多くのお金をせしめようとする輩もいました。こういうことを防ぐための見直しです。

*著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)

【画像】イメージです

*EKAKI / PIXTA(ピクスタ)

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小野智彦
小野 智彦 おのともひこ

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