改正に向けた議論が進んでいる相続法ですが、法務省から今年6月に発表された改正に関する中間試案としては、「高齢化社会」ということをキーワードに、5つの柱が示されています。
今回は、見直しが検討されている「遺産分割」「遺言制度」「遺留分制度」という、3つの制度に絞って解説したいと思います。
■「遺産分割」に関する見直し:配偶者と可分債権の扱いがより現実的に
(1)配偶者の相続分の見直し
現行の法定相続分では、配偶者の貢献に対する反映が不十分との批判を受けて、見直しの方向性について2案が出されています。
【甲案】
被相続人の財産が婚姻後に一定の割合以上増加した場合に、その割合に応じて配偶者の具体的相続分を増やすという考え方
【乙案】
婚姻成立後、一定期間(例えば、20年、30年)が経過した場合に、一定の要件(例えば当該夫婦の届け出)のもとで、又は当然に、法定相続分を増やすという考え方
個人的にはこの2案に加えて、見直しを検討してもらいたい点がございます。私の経験では、後妻に入った配偶者が、法定相続分を丸々相続する場合、相続をめぐった紛争が激化するケースが多いように思います。この点についての配慮があっても良かったかなと思います。
(2)可分債権の遺産分割における取り扱いの見直し
預貯金債権等の分割が可能な債権である“可分債権”を遺産分割の対象に含めることを前提に、下記のような案が提示されています。
【甲案】
遺産分割がされるまでの間も原則として各相続人の権利行使を認める案
【乙案】
遺産分割がされるまでの間は原則として各相続人の権利行使を禁止する案
つまり、このような合意がない限り、預貯金債権は、遺産分割協議を経ずして、銀行等に対して自分の相続分については下ろせるというのが法律上の扱いになっているわけです(実際上は、銀行は遺産分割協議書を持ってこないと下ろさせないという運用をしていますが、法的に支払いを拒否する銀行を訴えれば、支払い命令が下るわけです)。
これは、現在の判例上では、金銭債権等の可分債権は、相続の開始により当然に分割され、各相続人が相続分に応じて権利を承継されることとされています。そのため、現行の実務においても、原則として遺産分割の対象から除外され、例外的に、相続人全員の合意がある場合に限り、遺産分割の対象とするという取扱いがされています。
しかしながら、この考え方によると、遺産のほとんどが預貯金等だった場合には、特別受益や寄与分を考慮することなく、形式的に法定相続分に従って分割承継されてしまいます。よって相続人間の実質的な公平が図れないということで、このような可分債権も遺産分割の対象にしましょうという改正案が出されているわけです。
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