今年6個目の日本上陸となった台風16号のニュースも記憶に新しいですが、8月末には台風10号が観測史上初めて東北地方へ直接上陸し大きな被害をもたらすなど、ここ連日台風の情報が伝えられています。
また、東日本大震災から日本列島は地震の活動期に入っていると専門家が警鐘を鳴らすなど、企業も自然災害が起きた際のリスクメネジメントを考える必要性が高まっています。 さらに、個人の側からすると、自分が自然災害に関連した事故に巻き込まれてしまったとき、事故の原因となった企業に補償してもらえるのかといった心配もあります。
そこで、和田金法律事務所の渡邊寛弁護士に、ケーススタディとして、台風の日に飲食店で怪我をしてしまった場合に、店舗側に法的な責任があるのかといった問題について伺ってみました。
■顧客に損害を与えてしまった場合はどうなるの?
渡邊弁護士によると、一般論として、企業(店舗)が顧客に対して損害賠償責任を負う法的構成としては、主に次の3つが想定できるそうです。
①他人の権利や利益を不法に侵害する、民法上の一般的な不法行為責任
②企業が所有・占有している土地・工作物(建物など)のメンテナンス等の不備による損害について、企業が負う土地工作物責任
③契約関係にある人やその物の安全に配慮すべき義務に違反したことによる債務不履行責任
では、台風が上陸した際に、飲食店側が顧客や通行人に怪我を負わせてしまった場合について具体的に考えてみましょう。
例1:傘立てを店の外に置いていたため、台風で飛ばされて通行人が怪我
「この場合、傘立ては土地に接着していませんから②の土地工作物には当たりません。また、店舗と利用者でない通行人とに契約関係はありませんから③の債務不履行責任も生じません。問題となるのは、店舗に①の不法行為責任が有るか無いかです。
この場合、争点になるのは、店舗の過失についてです。台風の時に傘立てを外に置いたままにすれば飛ばされてしまうことは十分予想できることですから、過失が認められる可能性が高いと考えられます。立看板でも同じです。
これに対して、建物に固定された看板、ブロック塀、自動販売機などは土地に接着した工作物であり、これらが倒れて通行人がけがをしたとき、店舗は土地工作物責任を負うことになります。
この場合に問題となるのは店舗の過失ではなくて、土地工作物が通常求められる安全性を備えていたかどうかになります。設置の工事業者が手抜きをしたために事故が発生し、店舗が手抜き工事を知らなかったとしても、店舗は通行人に対して責任を負うことになります。」(渡邊弁護士)
例2:店舗の床が濡れたままになっており、すべって顧客が怪我
「この場合は、①の不法行為責任と③の安全配慮義務違反の責任を負う可能性があります。ただし、同時に2つの法的な責任を負うことがあっても、損害賠償額が2倍になるわけではありません。
飲食店の店舗は入店した顧客と契約関係に基づく安全配慮義務を負うと考えられますので、注意義務のレベルが上がることになります。飲食店に限らず、雨や雪の日に店内で濡れた床に滑って転倒し怪我をした顧客が店舗を訴えた裁判は少なくありませんし、床が危険な状態であれば店舗の責任が認められることになります。
実際には、裁判までには至らない事故が数多く起こっていると考えられます。雨天にかかわらず濡れた床を放置するようなことがないように、店舗側は注意しましょう。」(渡邊弁護士)
自然災害の発生は突発的ですが、予期できないものばかりではありません。渡邊弁護士の解説からもわかる通り、企業は顧客に対して安全配慮義務を負うこともあります。そのため、安全に対するメンテナンス不備などが理由で怪我をしてしまった場合は、自然災害が原因の事故であっても、店舗が損害賠償責任を負うことがあります。
飲食店側は、顧客への配慮が行き届いた店舗にしていくことを心がけることでリスクマネジメントすることが求められられるのです。
*取材協力弁護士:渡邊寛(和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)
*取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)
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