口コミサイトに書き込まれた社名が商標権侵害に!?裁判所が下した処分は妥当なのか弁護士が解説

中古品の買い取り価格を比較する『ヒカカク!』という口コミサイトがあります。この運営会社に対して、札幌市の中古車販売業者が、「社名が無断で使用された」「事実と異なる情報が掲載された」として削除を求める申し立てをし、札幌地方裁判所が商標権侵害を認めた仮処分決定を発令した、と各メディアで報じられています。

申立人の代理人弁護士によると、商標権の侵害を理由に、口コミサイトの情報削除を命じた仮処分決定は全国ではじめてではということで、「口コミサイトの在り方に一石を投じるのではないか」と話しているそうです。たしかにこのような請求が認められるとすると、口コミサイト存亡の危機となり得ます。

このような請求は認められるべきなのでしょうか。

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■商標権の侵害とするには“商標的使用”の認定が必要

商標権が侵害されたとするためには、ある行為の態様(状態、ようす)が、“商標的使用”であると言えることが必要です。すなわち商標には、自他識別機能(ある商品やサービス等が自身のものか他者のものかを識別することができる機能)や、出所表示機能(ある商品やサービス等が誰が提供するものかを明示する機能)がありますが、これを害する態様で商標が使用されなければ、“商標的使用”とはいえません。

口コミサイトに社名が掲載されていても、サイト内において社名が特定されるだけであり、自他識別機能や出所表示機能が害されているとは通常言えません。

たとえば、『iPhone』は商標登録されていますが、単にiPhoneという表示をしただけ、あるいはiPhoneを紹介したとしても、商標権侵害とはなりません。これは、自他識別機能や出所表示機能が害されているわけではないからです。

実際に問題の口コミサイトを見てみましたが、社名の使われ方は単に会社の紹介をする形になっており、自他識別機能や出所表示機能が害されているとはいえないと思われます。

したがって、口コミサイトに社名が掲載されているということをもって、商標権侵害とすることは不可能であろうと思われます。

商標権侵害があるとして削除が認められるとすれば、“批評に晒されない権利”のようなものを認めるに等しいですが、それは明らかに行き過ぎです。誹謗中傷は許されませんが、正当な批評は当然許容されるべきものです。

札幌地方裁判所は商標権侵害を認めたということですが、この点は明らかに誤りであると思われます。

 

■なぜ札幌地方裁判所は商標権侵害の仮処分決定を発令したのか?

純粋に裁判所が判断を間違ったという可能性があります。

しかし、報道によれば「事実と異なる口コミがあった」ということにも触れられています。仮処分決定においては、通常、その判断に至る理由が記載されず、決定の主文だけが記載されます。

そのため、実際には「事実と異なる」という理由で仮処分決定が発令されたにもかかわらず、申立代理人が商標権侵害も主張していたため、商標権侵害の点も含めて裁判所が認めたと誤解されているということが考えられます。

 

 

【訂正のご報告】

2016年9月23日に「シェアしたくなる法律相談所」にて公開いたしました本記事に関しまして、記事の情報元としていた報道に一部誤りがあった可能性がございます。「事実と異なる口コミがあった」ことも商標権侵害にあたる理由のひとつとされた、と報じられておりましたが、申立代理人より「商標権侵害を理由として名称の使用を禁じたものであり、商標権侵害を理由に投稿の削除が命じられたわけではない」という趣旨の申し入れがございました。

本記事は基本的に報道された内容を前提とした論評となります。なお、問題とされた口コミサイトの商標権侵害とされた記載内容は修正されたということですので、本記事文末に記載しておりました口コミサイトの今後の対応に関する記述内容については削除いたしました。

また、本件に関しまして9月27日時点で、すでに債務者が仮処分にしたがった措置を取っておりますことをご報告いたします。

 

*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)

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清水 陽平 しみずようへい

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