「養育費は請求しません」・・・1度約束したら絶対に貰えない?

■養育費は一般的な債権とは異なる

この点、一般の債権(貸金債権や売買代金債権)であれば、債権の放棄は基本的に自由にすることができるので、いったん権利を放棄してしまえば、後日、やっぱりお金を支払ってほしいと思っても、もはや相手に対して請求することはできません。

一方、養育費は、貸金債権や売買代金等の単純な金銭債権とは異なり、未成年の子の扶養という性格を有しています。

そのため、一度、養育費について夫婦間で合意したり、審判が下った場合であっても、子の扶養の観点から、その後の事情変更があれば、養育費の追加請求が認められる余地があります(民法880条)。

 

■養育費の追加請求は無制限に認められるわけではない

ただし、養育費の追加請求は、事情の変更があれば無制限に認められるわけではありません。

養育費の追加請求が認められるのは、当初の合意時や審判時には予見することができなかった事情の変更が生じたことによって、当初定めた養育費の額が生活の実情に適さなくなったり、新たに養育費を定めるべき相当な事情が生じた場合に限定されます(東京高裁平成10年4月6日決定)。

この審判例は、離婚調停時に養育費1,000万円を一時金として受領していた元配偶者が、子どもが私立の小中学校に通学したために学費がかさみ、中学卒業までに1,000万円を使い切ってしまったたため、他方の元配偶者に対して追加の養育費(高校入学時から大学卒業まで)の支払いを求めた事案です。

裁判所は、養育費を受領した元配偶者としては、当初受領した養育費を計画的に使用して子の養育にあたるべき義務があること、子を私立学校に通わせずに公立学校に通わせることも可能であったこと、離婚時に他方の元配偶者に対して、子の養育方法について具体的な希望を述べていなかったこと等から、当初の調停成立後にその内容を変更すべき事情の変更は生じていないとして、養育費の増額請求を認めませんでした。

以上のとおり、一度合意をした場合であっても、養育費の再請求や増額請求が認められる可能性はありますが、そのためには増額を認めるだけの相当の理由が必要ですので、離婚時には、子の将来設計について熟考したうえで、養育費の額を決定するべきでしょう。

また、相手との離婚を急ぐあまり、養育費請求権自体を放棄してしまうといったこともやめるべきでしょう。

 

*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)

*xiangtao / PIXTA(ピクスタ)

理崎 智英 りざきともひで

高島総合法律事務所

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