■放送法第4条違反の場合
しかし、放送法は、事実をまげた報道が行われた場合について、こうなりますよといった規定を定めていません。
放送法はこうしないといけませんよと定めていながら、守らなかった場合に犯罪になりますよとか、事業許可の取消ですよといった規定を定めていないわけです。
したがって、字幕の捏造だけでは犯罪になるような違法性まではありません。これは、憲法上報道の自由が保障されているためであると考えられます。
報道の自由は、マスメディアの事実を視聴者に伝える活動の自由ですが、国民の知る権利に奉仕するものとして憲法上保障されています。放送法は、報道の自由を不当に侵害しないよう、事実をまげた報道の是正についても報道事業者の自主規制・自浄作用に任せているわけです。
放送における問題を扱う機関としてNHKと日本民間放送連盟(民放連)によって設置された放送倫理・番組向上機構(BPO)という機関があります。
視聴者としては、放置できない問題報道がある場合、こうした機関に通報して是正を求めていくことになるかと思います。
■民事上の損害賠償請求について
放送法第4条違反だからといって、それだけで民事上の損害賠償請求が認められるわけではありません。
民事上の損害賠償請求が認められるためには、損害賠償請求が認められるに値するような違法性が必要となってきます。
権利の侵害とまでいえなくてもいいのですが、ある程度法的に保護すべき利益の侵害が認められないと民事上の損害賠償請求が認められるような違法性までは認められません。
そこで、情報提供者や視聴者の利益として事実をまげた報道をされない期待権のようなものを想定することも考えられますが、そうした期待権を裏切ったとしても民事上の損害賠償請求が認められるような違法性まではないと考えます。
また、民事上の損害賠償請求が認められるためには、さらに損害が発生していて故意または過失による行為との間に相当因果関係が認められなければなりません。
そうして考えてみると、一視聴者の放送事業者に対する民事上の損害賠償請求は難しいだろうなと思うわけです。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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