●人種を根拠とした宿泊・入浴拒否は違法となる可能性が高い
上記で紹介した例に類似したケースとして、小樽市公衆浴場入浴拒否事件というものがあります。
事例を簡単に紹介すると、公衆浴場におけるロシア人の施設利用・入浴マナーが悪いため、他の利用者からクレームが相次いだことから、浴場側が「外国人の方のご入場はご遠慮いただいております」旨の看板を掲示していたところ、ロシア人でない外国人が入場する際に拒否されたことを理由として、公衆浴場と小樽市に対して損害賠償請求等を求めた事件です。
この事件で裁判所は、公衆浴場を経営する会社にも営業の自由があることを前提としつつ、迷惑行為を行う外国人以外の外国人を一律に利用拒否としたことは違法であり、不法行為を構成すると判断して原告らの損害賠償請求を一部認めました。
小樽市の事件は、施設が公衆浴場なので、原則として希望者は利用できるということも損害賠償請求を認めた理由の一つとなっています。
しかし、民間会社が運営する宿泊施設においても、一部の中国人の入浴マナーが悪いことを理由として「中国人(または外国人)の宿泊を拒否します」として一律に宿泊・来店を拒否することは、同じように違法となる可能性が高いでしょう。
●「中国人観光客のご利用には条件があります」とすることは許される?
施設・お店側にも営業の自由や契約の自由はありますから、迷惑行為を行うお客さんの利用・来店を拒否することは可能です。
では、迷惑行為を防止するため、一律に外国人に対して利用条件を定めることはどうかというと、結論としてはケースバイケースで判断されるでしょう。
インターネット上で話題になったのは高級鮨店の対応ですが、(1)そのお店では海外の観光客のドタキャンが相次いでいたこと、(2)高級鮨店ではその日仕入れたものが使えなかったら廃棄するほかないため、ドタキャンされると損失が生じてしまうことなどの事情があります。
そのため、その高級鮨店では、外国人に対してはホテルのコンシェルジュまたはカード会社を通した予約のみを受け付けているということのようです。
このケースは外国人に対して一律に条件を定めていますが、利用を拒否しているわけではないですし、カウンター10席しかない高級店という特徴がありますので、問題となっている対応が違法とまではいえないと思います。
ただし、もしお店側が「中国人の観光客」という人種・属性に着目して条件を付けていた場合には違法となる可能性もあります。
お店の規模によって対応できる範囲は異なるとは思いますが、お店側としては、レピュテーションリスクを避けるためにも、利用条件を付す場合には特定の人種・属性のみを対象としないことが重要となります。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)
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