ハーグ条約とは?国際的な子の奪取に関わる重要ルール

平成26年4月1日、「ハーグ条約」(正式名称:国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」)が発効し、同時に同条約の国内実施法である「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」も施行されました。

ハーグ条約及び実施法の中身は具体的にどのようなものでしょうか。

ハーグ条約

ハーグ条約の締約国を常居所地とする16歳未満の子が日本に連れ去られた場合、返還を求めたいと考える親(以下「親A」とします)は以下のような手続きをとることになります。

■中央当局への援助申請

親Aは、中央当局(日本では外務大臣がこれにあたります)に援助申請を行います。

この場合、中央当局は、書類審査や子の所在調査を行った上で援助を決定し、合意による子の返還が行われるように子を日本に連れ去った親(以下「親B」とします)との協議のあっせん等を行います。

この段階では、親Bが任意に子を返還することを目指します。

■裁判

合意による解決ができなかった場合には、親Aは裁判所に子の返還を申し立てることができます。

裁判においては、親Aが、(1)子が16歳に達していないこと、(2)子が日本国内に所在していること、(3)常居所地国の法令によれば、当該連れ去りが親Aの子についての監護の権利を侵害するものであること、(4)連れ去りの時に、常居所地国が条約締約国であったことを立証することになります。

このうち、(3)の「監護の権利」については、日本と異なり、欧米諸国の多くで離婚後も共同親権制が取られているため、親Bによる連れ去りはこれを侵害するものと判断されると思われます。

これに対して、親Bは、例外的に返還を拒否できる事由があれば、これを主張して争うことになります。

具体的には、(1)子の返還の申立てが連れ去りの時から1年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること、(2)親Bが当該連れ去りの時現実に監護の権利を行使していなかったこと、(3)親Aが連れ去り前又は連れ去りの後にこれを承諾したこと、(4)常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること、(5)子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること、(6)常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであることが返還拒否の事由となります。

例えば、親Aが子を虐待していた場合などは、上記の(4)にあたるため、返還拒否が認められる可能性が高いでしょう。

■強制執行

裁判の結果、子の返還を命じる判決が確定した場合、親Bが任意に子を引き渡さなければ、強制執行が行われます。

強制執行は、まず間接強制(親Bが一定期間に履行しない場合に一定額の金銭を親Aに対して支払うよう命ずる方法です)によることとされ、その決定確定から2週間経過後は、代替執行が可能になります。

具体的には、執行官が親Bと子の所に行って、子を連れてくるという態様になりますが、親Bが抵抗した場合等、執行官にどこまでの行為が許されるかという点については、判断が非常に難しいところです。

この点については、最高裁が通達を出してはいますが、今後更なる議論が出てくることは必至でしょう。

上記の例では、ハーグ条約の締約国を常居所地とする16歳未満の子が奪取され日本に連れ去られた場合についてご紹介しましたが、日本から締約国に子が連れ去られた場合にも同様に、その締約国の手続による子の返還請求が可能です。

ただし、ハーグ条約発効前に生じた奪取には本条約は適用されませんので、その点には注意が必要です。

日本では、夫婦間にトラブルが生じた際に、一方の親が子を連れて出ていくということが多くみられ、裁判所もこのような行為をある程度容認してきた経緯があります。

ハーグ条約発効により国際的な子の連れ去りについてのルールが整備されたことが、国内における連れ去り事例についての判断にも影響を与えるのか等、今後注目されるところです。

*参考:時事ドットコム:ハーグ条約が発効=子の連れ去りで新ルール

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