川崎エスカレータ「誤作動の可能性」で損害賠償は?

今月8日、川崎市武蔵小杉駅のエスカレータが運転中に急停止して逆走し、10人が重軽傷を負うという事故が起きました。

その5日前の運転開始時にも緊急停止するという事象が確認されたのですが、試運転をしたところ問題なかったため通常運転させたとのことです。

また事故後国土交通省が行った調査ではエスカレータを動かす「駆動チェーン」が切れ、逆走を防ぐ安全装置も作動していなかったことが分かりました。

普段何の気なしに利用している公共交通機関上でトラブルが起き、もし自分が巻き込まれて怪我を負うようなことがあったら、治療費など慰謝料は誰にどのような形で請求することができるのか?あるいはできないのか?今回の事故を参考に考えてみたいと思います。

川崎エスカレータ

エスカレータは民放717条1項の「土地工作物」と言えますから(東京地裁H25.4.19判時2190号)、各負傷者は、このビルの管理者あるいは所有者に対して損害賠償請求することを検討することとなるでしょう。

また、エスカレータという製造物そのものに欠陥があったことにより事故が起きたという側面もあるかもしれませんから、製造物責任法3条に基づいて、このエスカレータを製造した会社に対して、損害賠償請求をすることを検討することにもなるでしょう。

その際の検討事項としては、(1)工作物責任を問うにあたっては、本件のエスカレータの設置または保存に瑕疵があったかどうか、そして、(2)製造物責任を問うにあたっては、エスカレータそのものに対する欠陥の有無、そして、通常予見されるエスカレータの使用形態といえるかどうか、ということになります。そして、この点についてどれだけ証明可能な事実を積み上げられるか、が実際に提訴するかどうかの判断基準になってきます。

■1:工作物責任について

問題点は、事故日よりも5日前の運転開始時に緊急停止するという事象が確認されたということ、そして、事故後の調査で「駆動チェーン」が切れ、逆走を防ぐ安全装置も作動していなかったという点でしょう。緊急停止するという事象が確認されたものの、試運転させたところ問題なかったと判断した点も問題となるでしょう。

つまり、通常は、事故日より5日前に運転開始時に緊急停止したことと、運転日に急停止し逆走、そして事故後の調査で「駆動チェーン」が切れ、逆走を防ぐ安全装置が作動しなかったというのは、一本の線によって繋がる、つまり、通常考えられる因果の流れの域を超えないものと判断できます。

すると、駆動チェーンそのものに瑕疵があったのではないか、そもそも逆走を防ぐ安全装置が正常に作動する状態ではなかったのではないか、そして、試運転時の調査が不十分だったのではないか、という流れになります。基本的に、工作物責任においては、これらが設置または保存に瑕疵があったということになり、あとは、ビルの管理者あるいは所有者の方で過失がなかったことを証明しなければなりませんが、この無過失の証明は非常に難しいと思います。

■2:製造物責任について

逆走を防ぐ安全装置が作動していなかったということが、製造物であるエスカレータそのものの欠陥と言えるか、ということですが、この事案では人為的なミスというよりも、駆動チェーンそのものに瑕疵があったことが原因との見方が強いと思います。

この点は、更なる調査結果を見てみないと分かりませんが、それを裏付けることができそうな資料が出てくれば、提訴することは十分に考えられます。

また、この事案では、駅のエスカレータに乗客が普通に利用しただけですから、通常予見されるエスカレータの使用形態であることは問題ありません。

以上より、いずれも損害賠償請求をされることになるでしょうし、その認められる可能性は高いということになるでしょう。

工作物責任も製造物責任も、そのものにより人の生命、身体に対する危険が発生しうる危険物であることから、責任が特に加重された内容になっています。エレベーターに限らず、階段の角度やら手すりの有無、自動ドアの開閉のスピード、滑りやすいタイルの使用等々、人が怪我しやすい環境というのは、探し始めれば切りがありませんし、ひとたび事故が起こると、多額の損害賠償責任が発生します。

今一度、自らの施設内の設備等をよく見直し、人が怪我をする危険がないかを注意深く観察し、これでもかというくらいの対策をされることをお勧めします。

小野智彦
小野 智彦 おのともひこ

大本総合法律事務所

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