先日、長年連れ添った夫を亡くしたNさん(50代・女性)は、発覚した裏の顔に絶句しています。
「良好な夫婦関係を築いている」と思っていたのですが、実は長年付き合った愛人がおり、子供まで設けていたことが判明。
「ずっと裏切られていた」とショックを隠せません。
婚外子が突然登場
そんなNさんに追い打ちが。
葬式に突然「婚外子」が現れると、我が物顔で遺産相続権を主張してきました。
「びた一文やりたくない」と追い返したそうですが、相手方は「自分には権利がある」と譲りません。
突然現れた婚外子に遺産を相続する権利があるのでしょうか? あすみ法律事務所の高野倉勇樹弁護士にお聞きしました。
弁護士の見解は…
高野倉弁護士:「夫の死後に存在が判明した婚外子にも相続権はあります。
ただし、法律上の親子関係があることが必要です。
前提として、その婚外子の方が、法律上も夫の子であると認められている必要があります。
DNA鑑定で親子である(可能性が極めて高い)とされていたとしても、それだけでは相続権は発生しません。
認知(民法779条)される必要があります。
認知されて初めて、法律上の親子関係が認められるからです。
遺言で認知することもできます(民法781条2項)。
夫(婚外子の父)から認知されない場合には、裁判で認知を求めることができます(民法787条本文)。
認知をしないまま夫が死亡した場合には、死後3年に限り、裁判で認知を求めることができます(民法787条ただし書)。
このように、たとえ婚外子であっても法律上の親子であれば相続権があります」
相続分は?
高野倉弁護士:「相続人が妻、子2名(妻との間の子1名+婚外子1名)、遺言はなかった、という場合で考えます。
まず、妻の相続分は2分の1です(民法900条1号)。
子2名の相続分(子のグループ全体での相続分)は、合計2分の1です。今回は子が2名なので、4分の1ずつの相続分をもつことになります。
子が3名でも4名でも、子のグループ全体での相続分は合計2分の1です。なので、子が多い場合には、一人ひとりの相続分は少なくなります」
婚外子と嫡出子の差別(民法改正前)
高野倉弁護士:「なお、このように、結婚している相手との間の子(嫡出子といいます。)と婚外子(非嫡出子といいます。)の相続分が同じになるのは、平成13年(2001年)7月1日以降に開始した相続(この日以降に被相続人が死亡した場合)です。
平成25年(2013年)9月5日、民法が改正され、嫡出子と非嫡出子の相続分を区別していた民法900条4号ただし書前段が削除されました。
これは、平成25年9月4日、最高裁判所が、『遅くとも平成13年7月当時には、嫡出子と婚外子(非嫡出子)との相続分を区別することは憲法14条1項に反していた』と判断したことを受けての改正です。
平成13年(2001年)7月1日よりも前に開始した相続の場合、婚外子(非嫡出子)の相続分は、嫡出子の2分の1となります。
今回の例で言うと、仮に夫が死亡したのが平成13年6月だった場合でも、妻の相続分2分の1は変わりません。
しかし、妻との間の子(嫡出子)の相続分は6分の2、婚外子の相続分は6分の1になります」
婚外子に遺産を渡さない方法
高野倉弁護士:「認知されて法律上も親子関係があるとされた婚外子に遺産を一切渡さない方法はありません。
『婚外子以外の相続人に遺産の全てを相続させる』という遺言を書いても、遺留分があるので(民法1042条1項2号)、法定相続分のさらに2分の1ではありますが、相続権は残ります。
婚外子が相続放棄(民法938条)をしてもらったり、相続分の譲渡(民法905条参照)や相続分の放棄をしてもらえば、婚外子が相続をしないことになります。
つまり、婚外子の意思にかかっているということになります」
婚外子がいる人は周知を
夫が婚外子を認知していた場合は、嫌でも遺産相続の権利が発生するようです。
妻以外に子供を産ませ、認知している人は極稀かもしれませんが、該当する人は混乱を避ける意味でも必ず覚えておきましょう。
*取材協力弁護士:高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)