受験シーズン真っ只中の昨今。センター試験など、受験生の皆さんは忙しい日々を送っているのではないでしょうか。とくに浪人して志望大学合格を目指している人は、結果が気になって眠れないかもしれません。
意図的な減点が問題に
そんな入学試験ですが、昨今大学側による「不正」が問題になっています。大きく報道された事案といえば、東京医科大学の女子生徒と浪人生の一律減点問題。
女子と浪人生を「入学させない」ため、テストの点数を減点させていたという事実は耳を疑うもので、大学が猛批判を受けることになりました。一生懸命努力した結果を操作されては、怒るのは当然です。また、容姿が極めて優れた女性などは、優遇されるという都市伝説的な噂も流れています。
批判も多い減点ですが、「必要悪」との声もあるようです。また、明確に「法に触れる」わけでもないようで、自分や身内の受験する大学がそのような措置をとっていないか心配になってしまいますね。女性だから」「浪人生だから」という理由で入学試験の点数を一律に減点することは違法ではないのでしょうか? 琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。
法律に触れるのか?
川浪弁護士:「憲法第14条1項は、「人種・信条・性別・社会的身分・門地」による差別を明確に禁止しています。憲法は、直接的には国に対してこのような差別を禁止しているのですが、民間企業や私立学校であっても憲法が間接的に適用されますので、詰まるところ、民間・公的団体・国を問わず、上記事由を理由に差別をすることは許されません。
また、憲法第14条1項に列挙された上記以外の事由による差別も許されません。ただし、合理的な理由によって取り扱いに差を設けることは、合理的な「区別」であって「差別」にはあたりません。憲法が禁止している「差別」とは「不合理な理由によって取り扱いに差を設けること」です。
本件では、大学入試の選考にあたって、①女子という理由で減点する、②浪人生という理由で減点する、③容姿で減点する、④容姿で加点する、ことが許されるかどうかという質問ですが、これらの事情による区別が「合理的」といえるかどうかで判断することになります」
不合理な差別は許されない
川浪弁護士:「どのような選考基準を設けるかにあたっては大学に一定の裁量があるものの、その裁量には限界があり、不合理な差別が許されないことは上記の通りです。
この点に関して、国立大学法人の医学部入試において、同入試で不合格となった者が「年齢を理由に不合格と判定された」と主張して、その合否判定の効力を争った裁判例(東京高等裁判所民事第14部平成19年3月29日判決)が参考になります。
同裁判例は
「入学試験における合否の判定にあたり、憲法及び法令に反する判定基準、例えば、合理的な理由なく、年齢、性別、社会的身分等によって差別が行なわれたことが明白である場合には、それは本件入試の目的である医師としての資質、学力の有無とは直接関係のない事柄によって合否の判定が左右されたことが明らかであるということになり(いわゆる他事考慮)、原則として、国立大学に与えられた裁量権を逸脱、濫用したものと判断するのが相当である。」
旨判示しています。同裁判例は、国立大学法人の合否判定に関するものですが、私立大学であっても「国から私学助成金の交付を受けている」点で公的な側面がありますので、同裁判例の判断が当てはまるものと思います。
(ただし、私立大学の場合、独自の学風等があるため、国立大学の場合に比べて裁量は広く認められるでしょう。)
本件では、出生によって自己の意思とは無関係に決まる「性別」による減点には、学生としての資質や学力とは無関係と考えられますので、合理的な理由のない「差別」にあたり、当該措置は許されないでしょう。
「容姿」による減点及び加点も、同様に、出生によって自己の意思とは無関係に決まるものですし(体重はさておいて、顔つきはそう言えます。)、学生としての資質や学力と無関係でしょうから、許されないものと考えます。
浪人生には別の観点が必要
川浪弁護士:「他方で、浪人生という理由で減点することについては、異なる観点から分析しなければなりません。誰でも平等に「現役」受験する機会が形式的に付与されているからです。
この点で、「性別」「容姿」とは異なりますので、減点する「合理的な理由」の有無は、「性別」「容姿」の場合と比べて緩やかに判断されると思います。しかしながら、浪人生と言っても一浪の人は現役生と比べて1歳しか年齢は異なりません(余談ですが、高校で1年留年した現役生は留年していない一浪生と年齢は同じになります。)
このような場合、1歳という年齢の差が学生としての資質や学力の有無に関係するかどうかの判断は困難ではないでしょうか。したがって、「浪人生」という理由だけで減点することも許されないと考えます。
もっとも、18歳で受験する現役学生と(浪人生と言っていいのかどうかわかりませんが)定年後しばらくしてから、例えば、90歳になってから受験する浪人生とでは、将来的な記憶力や体力に差があることは明白といえるでしょうし、大学で得た経験・知識を社会に還元することを前提とした場合(卒業後に医師となって働くことを前提に教育する医学部はその典型でしょう。)、将来の稼動年数を考慮するとこの場合に差を設けることには合理的な理由があると思います。
すなわち、「現役生」か「浪人生」かという点に着目して、「浪人生」という理由で一律に減点することには合理的な理由は見出しがたいと思いますが、一定の年齢を基準に差を設けることには合理性があり、不合理な「差別」にあたらないと思います。もっとも、こういう場合には、受験資格に年齢制限を設けるか、「○歳以上の場合には○点減点する。」という選考基準を募集要項等で予め明示しておくのが望ましいでしょう。
なお、上記裁判例も
「(大学が)合格のためには、知力、体力、気力が必要であるとし、医師として活躍するには、六年間の課程に加えて、臨床研修二年間も含め卒業後一〇年くらいの経験が必要であることを考慮するように入学試験応募者に説明しているが、このような点を考慮することには合理性があり、受験者を合理的な理由なく単に年齢によって差別することとはならない。」
と判示しており、年齢を考慮すること自体が直ちに「差別」に該当するとは言っていません」
「女性だから」「容姿が良いから」という理由で減点や加点をすることは、「差別」該当する可能性が高いとのこと。不合理な入学試験は行われていないと思われますが、仮に事態が発覚した場合は、不当性を訴えることもできそうですね。
*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)