いわゆる「ブラックな仕事」の代表格に、「ツアーコンダクター(旅行会社添乗員)」があります。
ツアー旅行に同行し、長時間顧客対応に迫られたうえ、自宅ではなくホテルで一日を終える。いわば一日丸々仕事と言っても良いのですが、残業代がでないことが多く、かなり報酬が安いと聞きます。
さらにタイムカードも存在しないため、勤務時間が把握しにくく、場合によっては会社にうやむやされてしまうのだとか。このような場合、会社に未払い残業代を請求することはできないのでしょうか?
エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に解説していただきました。
■残業代は請求できる?
大達弁護士:「ツアーコンダクターに限らず、どんな仕事であっても、労働基準法上、原則として1日で8時間、1週間で40時間を超えて労働した場合には、原則として残業代を請求することが出来ます(32条1項、同2項、37条)。
しかし、ツアーコンダクターなど、事業所外での業務が大半を占める職種においては、いつ、どこで、何時間仕事をしたのかを算定するのが困難であるとして、残業代が支払われないことがあります。
すなわち、ツアーコンダクターの仕事が、労働基準法38条の2第1項の「事業場外で業務に従事した場合で、労働時間を算定し難いとき」にあたるとされ、1日の労働時間が8時間であるとみなされてしまい、たとえ何時間働いたとしても残業はなかったことにされてしまうのです
このような場合、会社に対し、残業代を請求することは出来ないのでしょうか。この点について、最高裁は、旅行添乗員の残業代請求に関する事件について、
①旅行の日程等はあらかじめ具体的に決められており、業務自体もマニュアルに従ったものを会社から命じられている以上、添乗員には裁量がほとんど認められていない点、
②添乗員は何か問題が生じた際には携帯電話等で常時会社に連絡が可能であった上、会社は日報等によって添乗員の勤務の状況が把握可能であった点
をあげ、「業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等」を考慮し、結論として労働基準法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと判断しました(最高裁平成26年1月24日判決)。
つまり、最高裁は、①当該ツアーコンダクターの業務に裁量が認められるかどうか、②会社が業務状況を把握することができたかどうか、という点を考慮して、労働時間の算定はが困難とは言えないものと判断したものと考えられます。
これを踏まえると、一般的なツアーコンダクターの仕事の場合も、①あらかじめ定められた日程での業務であり、②携帯電話等による状況把握も、現在においてはより簡便になっているといえるため、ツアーコンダクターの業務は労働基準法38条の2第1項に当たるとまでは言いにくく、結果として残業代請求は認められる可能性は高まるものと考えます。
もっとも、①ツアーコンダクターの裁量が大きく、自ら現地において行程等を決めることができ、あるいは②携帯電話や日報等による業務状況の把握が困難な場所(電波が通じない場所など)における業務である場合には、「労働時間を算定し難いとき」に該当するとして、労働基準法38条の2第1項にあたり、残業代の請求が難しくなる可能性があります」
ツアーコンダクターの仕事はかなり特殊で、「残業代が出る・出ない」はケースバイケースであるようです。残業代を請求したい場合は、弁護士の力を借りることをお勧めします。
*執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)